日本大百科全書(ニッポニカ) 「断食療法」の意味・わかりやすい解説
断食療法
だんじきりょうほう
疾病の治療や肉体改造の目的で一定期間食物を断つ民間療法の一つ。断食は古来、重要な宗教行為として世界の諸宗教に広くみられるように、宗教的色彩の濃いものである。これに対して絶食というのは比較的新しい用語で、おもに医療行為として行われる場合に使われる。すなわち、絶食は食事療法や検査の前処置として行われるほか、ロシアでは主として精神病患者に、欧米では肥満症の治療に用いられ、日本では心身症の治療に応用され、注目されている。
断食は、インドのバラモン教の断食行(ぎょう)をはじめ、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など世界各地で行われてきたが、いずれも身体清浄という意味が含まれ、祈願成就(じょうじゅ)を目的とした精神方面の鍛練に重きを置いている。日本ではすでに1000年余も前から千葉県成田(なりた)山新勝寺で幾千幾万の善男善女が断食堂に参籠(さんろう)して断食行をしてきたが、そのなかには難病根治を目的としたものも少なくなかった。この断食行に対する近代医学的立場からの調査が行われたのは明治になってからであり、断食行者の生理学研究が発表されたのは昭和初期のことである。
断食療法の適応症としては、心身症や神経症をはじめ、動揺性高血圧、過敏性大腸症候群、慢性胃炎、過呼吸症候群、心因性気管支喘息(ぜんそく)などのほか、肥満症、メニエール症候群、更年期障害、自律神経失調症など、多くの疾患がある。一方、禁忌としては脳血管障害、心筋梗塞(こうそく)、心不全、腎(じん)不全、悪性腫瘍(しゅよう)、潰瘍(かいよう)などがある。また、10歳以下と60歳以上も避ける。
[寺井嵩雄]
治療の実際と注意
断食に入る前に健康状態のチェックを医師から受け、まず3~7日間の予備断食で七分粥(しちぶがゆ)から重湯(おもゆ)まで日を追って減食し、本断食に入る。その期間は普通10日前後で、水以外は口にしないが、身体状況に応じた処置が講じられる。断食中にはいろいろな異常反応がみられ、体温・脈拍・血圧などの低下、睡眠時間の短縮をはじめ、舌苔(ぜったい)、口臭、体臭のほか、めまい、耳鳴り、視力低下などが自覚されるが、これらは断食による栄養状態の変化によるもので、断食3~5日後にはほぼ消滅する。また、歯肉出血、発疹(ほっしん)、嘔吐(おうと)などのほか、持病が一見悪化するように思えることもある。さらに、尿の色が赤変したり、ガスが多く出るほか、女性ではときならぬ月経をみることがある。このように、断食初期には初心者を心配させるような症状がいろいろみられるが、そのほとんどは心配のないものである。
次に回復期に入ると、重湯から三分粥、五分粥、七分粥、全粥、常食と、2~3日ごとに増して、10日間の本断食の場合では12日間以上費やして回復させるのが適当とされる。この期間にも、胃部のもたれや胸やけのほか、空腹を感じなかったり、むくみやはれぼったい感じがすることもあるが、食事量の増加とともにしだいに回復してくる。断食後の食事療法が進むにつれて、長らく腸内に停滞していた宿便が排出されると気分が爽快(そうかい)になり、断食療法の目的が達せられたことが確認される。
[寺井嵩雄]