低い方形の墳丘の周囲に浅い溝をめぐらせた墓。弥生時代を中心に発達した。方形区画は1辺5~15mの正方形ないし長方形で,幅1m内外の溝を掘削した排土その他を内側に積んで低い墳丘を築いたが,後世の削平により墳丘を残さないものが多い。削平を免れた大阪府瓜生堂遺跡例では,盛土の高さは約1mあった。方形区画内にふつう1体から数体の埋葬を行うが,1基に十数体の例もある。埋葬様式は木棺を中心に土器棺,土壙墓を伴う。また周溝内に土壙を掘って埋葬する場合もある。こうして成人男女,幼児など複数の人が周溝墓内に葬られることから,家族集団を基礎とする墓と考えられる。ふつう周溝墓が20~30基ほど群集して共同墓地を形成することが多く,溝を共有しながら数基の墓が連接する。これらの連接した墓は,供献された土器に時期差がみられるため,何世代かにわたり形成されたと考えられる。畿内地方では弥生時代前期の方形周溝墓が確認されているが,東日本では中期以降,九州地方では後期後葉以後に出現しており,盛行期に地域差が認められる。また古墳時代以後にも,周溝をめぐらせた円形および方形の墓が検出される。しかし,規模の差があり,大規模なものは方墳や円墳など古墳の墳丘が削平され,周溝のみが残ったものと説明されるが,1辺10m前後の小規模なものを方形周溝墓と呼ぶべきか,小型方墳と呼ぶべきか,議論は分かれている。
→弥生文化
執筆者:都出 比呂志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
方形や長方形に墓の周囲を溝で区画し、その内部や溝中に埋葬をする家族(小集団)墓の一形式。弥生(やよい)時代前期末から古墳時代前期に、主として近畿地方以東で盛行した。墓域は、数基あるいはそれが数群で形成され、連結や規則的な配置を示すものが多い。墓の造営では、溝による平面区画に重点が置かれ、高さ1メートル前後の盛り土をもつものもあるが、墳丘構築を重視するのは後出的なものである。平面形態は、四隅の何か所か溝の一部を掘り残すことで、各種のバラエティーに富む。円形や前方後方状のものも含め、時期的、地域的な傾向をもつ墓域と、複数の形態が同一墓域を構成することもある。埋葬施設は、木棺直葬や土壙(どこう)を設け、壺棺(つぼかん)や甕棺(かめかん)も一部で小児用として使用する。副葬品は、大部分からは発見されないが、少数から玉類、鉄・銅製品が出土する。土器は、破砕(はさい)された葬送儀礼用や、穿孔(せんこう)(焼成前または後に施す)や一部を打ち欠いて儀器化した供献(くけん)用が出土する。
方形周溝墓は、弥生時代前期末に近畿地方で発生して伊勢(いせ)湾岸へ及び、中期以降に急速に東方へ伝播(でんぱ)するが、西方への波及は少ない。しかし古墳時代前期には、東北地方から南九州地方までの汎(はん)日本的分布を示す。
類似の墓制に方形台状墓があり、丘陵上で溝による区画よりも、地形整形で立体的に構築するものである。弥生時代前期に発生し、中期以降に中国地方を中心に盛行する。
[鈴木敏弘]
弥生時代の墓制で,地域によっては古墳前期にもひきつがれる。弥生前期に畿内で出現し,のち全国に普及。1辺5m前後から20mほどの大きさで,幅約1~2mの溝が方形にめぐる。検出例は少ないが,溝で囲まれた中に本来低い盛土があり,そこに1ないし数基の埋葬主体がある。埋葬主体は土壙がふつうであるが,溝内に設けられることもあり,土器棺も併用される。副葬品は少なく,剣・玉類などが少量検出される。溝内からは供献用の底部穿孔(せんこう)土器が発見されることが多く,墓前での葬送儀礼に用いたものとされる。墓は集落に隣接して単独あるいは群集して営まれており,集落内の特定集団の墓としての性格が強い。広い意味での墳丘墓で,円形周溝墓・前方後方型周溝墓などとの関連もある。近年朝鮮半島南部からも発見されている。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…素掘りの長方形の穴に板石数枚で蓋をした〈石蓋土壙〉も九州北部を中心に,前期から長い期間つくられる。 九州北部,近畿地方では前期から大きな板を組み合わせた木棺が用いられ,近畿地方ではこの風習は後述する方形周溝墓の主体に用いられて中期まで行われる。近畿地方で前期からつくられる方形周溝墓は,平面方形ないし長方形(1辺10m内外)の盛土(高さ1m前後)の周囲に溝をめぐらし,盛土上に木棺墓,土壙墓,壺棺墓などを設けたものであって,東海地方で中期,関東地方で中期末,九州では古墳時代初期につくられる。…
…なお西北九州から北部九州にかけては,弥生時代前半に石を組んで墓の標識とする支石墓が発達した。東九州(宮崎県)では,弥生時代の終り近くに後述する方形周溝墓が出現した。これは古墳時代に福岡・熊本県下に及んでいる。…
※「方形周溝墓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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