近世の宿場にあって、おもに一般庶民や公用旅行以外の武士が利用した休泊施設。飯盛(めしもり)女を抱える飯盛旅籠屋と、そうでない平(ひら)旅籠屋の二つがあった。「はたご」とは元来、馬の飼料を盛る籠(かご)のことをいい、のちには旅行用の食料・雑品の入れ物や、食料そのものをさすようになり、転じて旅行者を宿泊させて食事を提供する旅宿を旅籠屋とよぶようになった。これに対し、旅行者自身が食料を持参して、薪炭代(木賃(きちん))のみを支払う旅宿を木賃宿とよび、旅籠屋より下等とされた。旅籠屋の経営が成り立つのは、東海道のように交通量が多く、四季を通じて旅行者のある所だけで、ほかの街道では農業などと兼業であった。宿場によって旅籠屋数は異なるが、幕末期の東海道の宿駅の場合には一宿平均57軒である。
[渡辺和敏]
…それを拡充整備したのは江戸幕府で,五街道には宿を置いて幕府が直轄した。宿には運輸・通信にあてるために人馬を常備させ,休泊のためには旅籠屋,茶屋を置いた。宿場は従来の集落を基盤にしたものが多いが,新しく近隣から集めて形成した場合もあったので,一宿が行政上では数ヵ村にわたり,あるいは2郡にまたがることもあった。…
…旅籠は元来,馬料入れの丈の低い竹籠をさしたが,《今昔物語集》等によれば旅行中に食糧を入れて持参する旅具であった。中世には宿屋が出現して馬の飼料を用意し,その馬槽を宿屋の看板としたことから〈馬駄餉〉,後世転じて旅籠屋というようになった。このようにして旅籠には,馬の食を盛る籠,旅行の食糧雑品を入れる竹の容器,宿屋,宿屋の食料,宿料といった各様の意味と変遷がある。…
※「旅籠屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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