遠方の星や星雲から発せられた光は、地球に到達するまでにさまざまな星間物質相を通過してくる。その際、光はそこにある物質の相に応じて異なった吸収を受ける。これを星間吸収という。中性原子または部分的にイオン化した原子からなる物質相を通る際は、それらの原子に特有のある決まった波長のところでのみ吸収を受ける。これを吸収線という。吸収線の中心波長、吸収線の幅と深さと形を解析することにより、吸収に寄与した物質層の温度や視線方向に積分した密度、乱れた運動のようすなどを推定することができる。星間ガス中には30万K(ケルビン)にも達する高温ガスが銀河円盤中に広く分布していることや、銀河ハロー中にも10万K近くの高温ガスが広がっていることは、紫外線領域での吸収線の観測によって明らかにされた。ほかに、可視光、赤外線、電波の各波長領域での吸収線を利用して、温度が数百Kから1万Kの間の星間物質の診断(温度・密度・運動の推定)がなされている。
密度が高い星間物質中には、分子が多数結合した星間塵(じん)が多量に存在している。この星間塵中を光が通過すると、星間塵を構成する物質特有の波長域で鋭く吸収されるとともに、ほぼ波長に反比例するような吸収率で、どの波長においても連続的に吸収されるということが知られている。波長に反比例するような吸収率であるため、可視光から赤外線へと波長が長くなるにつれ、吸収される量は少なくなる。たとえば、天の川方向(銀河面内)の可視光で見通せる距離は1万光年くらいだが、赤外線や電波領域では距離が3万光年の銀河中心まで見通せる。夕陽が赤いのも同じ理由であり、大気中の塵(ちり)によって紫外線や可視光域の光は吸収・散乱されてしまって、波長の長い赤色の光しか届かないためである。遠方の星の場合のこのような現象を、星の光の赤化とよんでいる。
暗黒星雲は、とくに星間物質の密度が高く宇宙塵も多量に存在している場所で、背後にある星の光を遮ってしまうため、写真乾板上には何も写らず暗黒領域としてしか見えないのである。宇宙塵は、1000K以下の温度の低い物質に存在しているから、宇宙塵によって星の光が吸収され減光する程度や赤化の程度により、途中の空間に存在する低温の物質層の厚みを推定することができる。
以上のような、通過する物質中での星の光の吸収の解析から星間物質の物理状態を探るという方法は、準星のスペクトル中の吸収線や減光の解析から、宇宙規模での物質の分布や物理状態を探るのにも応用されている。
[池内 了]
遠くの恒星の光が,星間空間にある固体微粒子やガスなどの星間物質により吸収されることをいう。星間物質による散乱も含めて,星間物質により光が暗くなることを総称して星間吸収と呼ぶことも多い。歴史的には散開星団の見かけの直径から距離を求めると,遠くのものほど暗くなり方が著しいことから星間吸収の存在がわかった。星間吸収は可視光線の波長域では波長λにだいたい反比例するので,星の光は赤くなる。この色超過EB-Vと星間吸収による実視等級の増加AVの間には,だいたいAV=3.2EB-Vの関係があるので,EB-Vを計ればAVを推定できる。しかし,オリオン星雲領域などではこの比例常数は2倍にもなる。星間物質は銀河面付近に多いので,銀河面の方向で星間吸収も大きく,距離1キロパーセクにつき1等級ほど星の光は暗くなり,銀河中心は可視光線では見えない。また,星のスペクトルには,星間ガスによる吸収線もあり,ナトリウムのD線,カルシウムイオンのK線などが知られている。
執筆者:上條 文夫
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