月を人格化した神。月に住んで夜の世界を支配し、馬車や舟などを乗り物として天界を旅する存在である。日神(にっしん)がとかく王権や支配者層と結び付くのに対し、月神は寿命や性、繁殖、豊饒(ほうじょう)、庶民層と結び付いている。月神の性別は民族、風土、時代によって多少異なるが、一般に未開の非農耕民には男神が多く、文明民族には女神が多い。また月面に現れる陰影はしばしばこの月神そのもの、もしくはこれと関係する動物(ウサギ、ヒキガエルなど)や植物(カツラなど)の姿とされた。月光の青白い色が水を連想させることから、月と雨や露、河川や井泉、海潮などとの結び付きが信じられ、月神はしばしば豊饒の神とされる。アジア・ヨーロッパに広くみられる「月の水汲(みずくみ)人」の俗信は、月神が雨露をもたらすという信仰から由来しており、月の陰影は、ある人物が器を持って水を汲(く)もうとしている姿であるとしている。さらに、月の盈虚(えいきょ)(満ち欠け)はその死と蘇生(そせい)であると観じられ、その周期性は暦法と結び付けられた。日本の月神である月読命(つきよみのみこと)が保食神(うけもちのかみ)を殺し、その死体から五穀が生じたという神話は、月と農耕との結び付きを表しており、類似のモチーフをもつこのハイヌウェレ型神話は未開民族にもみられる。
[松前 健]
『石田英一郎著『桃太郎の母』(1956・法政大学出版局)』▽『A・イェンゼン著、大林太良他訳『殺された女神』(1977・弘文堂)』
…中国神話にみえる月神。常娥,常羲(じようぎ)などとも書く。…
※「月神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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