朝長(読み)トモナガ

デジタル大辞泉 「朝長」の意味・読み・例文・類語

ともなが【朝長】

謡曲二番目物世阿弥または観世元雅の作。源朝長の守役であった僧が、美濃の青墓あおはかに朝長の墓所を訪ねて観音懺法せんぼうを修法すると、朝長の霊が現れ、自害するまでのようすを語る。

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精選版 日本国語大辞典 「朝長」の意味・読み・例文・類語

ともなが【朝長】

  1. 謡曲。二番目物。各流。作者不詳。以前源朝長の守役だった清涼寺の僧が美濃国青墓にある朝長の墓所を訪れると、朝長が自害した宿の長者が来合わせて僧に朝長の最期のさまを語り、宿に連れ帰る。その夜、僧が朝長が尊んでいた観音懺法(せんぼう)を修法すると、朝長の亡霊が現われて、傷を負ってから自害するまでのさまを語る。「平治物語」による。

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改訂新版 世界大百科事典 「朝長」の意味・わかりやすい解説

朝長 (ともなが)

能の曲名。二番目物修羅物。作者不明。前ジテは青墓の宿(しゆく)の長(ちよう)。後ジテは源朝長の霊。朝長に縁の深い僧(ワキ)が,その死を弔うために美濃の青墓に赴くと,墓前で中年の女(前ジテ)を見かける。女は青墓の宿の長で,朝長を弔いに来ているのだといい,その死をしみじみと物語る。それは,平治の乱の敗戦東国に落ちのびてきた源義朝の一行を,長は自分の家に泊めたが,重傷の次男朝長は父たちのことを考えて夜中に自害し,短い生涯を終えたといい(〈語り・上歌(あげうた)等〉),僧を自分の家に伴う。僧が観音懺法(かんのんせんぼう)の法要を勤めると,夜半に朝長の霊(後ジテ)が昔の姿で現れる。朝長は,兄義平や弟頼朝が敵に捕らえられ,父の義朝は家臣長田(おさだ)に討たれるなど一門が不運をたどるなかで,青墓の宿の長が自分たちを親身に世話し,死後の弔いまで続けてくれていることに感謝し(〈クセ〉),今の修羅道の苦しみや,最後の戦いで膝を射られて重い手傷を負ったことなどを物語る(〈ロンギ・中ノリ地〉)。前ジテを現実の人物とする修羅物はこの曲だけである。若武者の死に立ち会った女性が,あまり日を経ない時点でそのことを物語るという点に特色があり,哀傷の思いが強く迫る能である。なお,この能の小書(こがき)の一つ懺法(せんぼう)〉は重い習物で,とくに太鼓方はにぶい低音の独得の音色に調えた太鼓を用い,秘事とされる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「朝長」の意味・わかりやすい解説

朝長
ともなが

能の曲目。二番目・修羅(しゅら)物。五流現行曲。観世元雅(かんぜもとまさ)作とも。出典は『平治(へいじ)物語』の「義朝(よしとも)青墓(あおはか)に落ち着く事」。平治の乱で平清盛(きよもり)に敗れ、落武者となった源義朝父子。義朝の第二子朝長は膝(ひざ)の負傷のため父の手にかかるが、能では自害として描いている。朝長の養育係だった男(ワキ)が、僧に身をやつして美濃(みの)国青墓にやってくる。親子をかくまい、朝長の最期をみとった青墓の長者(遊女宿の女将(おかみ)。前シテ)とその僧が朝長の墓前で出会い、長者は朝長の悲痛な死を語り、わが家へ僧を導く。弔いに引かれて朝長の霊(後(のち)シテ)が現れ、敗戦の模様と修羅道に落ちたありさまを語り、回向(えこう)を願って消える。前シテが庇護(ひご)者であり悲劇の目撃者である年輩の女性、後シテは運命に死ぬ年少の武者、この対比がむずかしく、『実盛(さねもり)』『頼政(よりまさ)』とともに三修羅とよばれ、重い能とされる。とりわけ観音懺法(かんのんせんぽう)の仏事を模した「懺法」の演出は、常とは違う低い調子で演奏される太鼓の役の秘事となり、諸役ともに重い習いである。

[増田正造]

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世界大百科事典(旧版)内の朝長の言及

【懺法】より

…真言系には懺法はないが,《金剛界礼懺(れいさん)》《胎蔵界礼懺》がこれに相当すると考えられる。(2)能《朝長(ともなが)》の小書(こがき)(変型演出の名)。後ジテ源朝長の霊の出の囃子事(はやしごと)は,通常は〈出端(では)〉だが,それをまったく別の〈懺法〉に変える。…

※「朝長」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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