李人稙(読み)りじんちょく(英語表記)(R)I In-jik

改訂新版 世界大百科事典 「李人稙」の意味・わかりやすい解説

李人稙 (りじんちょく)
(R)I In-jik
生没年:1862-1916

朝鮮の文学者,言論人。号は菊初。旧韓国政府留学生として日本に渡り政治学,法律学をまなぶ。帰国後1906年《万歳報》主筆となり同誌に《血の涙》を連載,07年には《大韓新聞》を創刊し社長に就任した。彼は個人的に李完用に近く,小説中にも日本への過大な期待が溢れている。しかしながら20世紀初頭朝鮮に本格的近代文学の発生を準備した〈新小説〉の代表的作家としての彼の功績は大きい。自主独立民主主義・新教育・婦人解放・自由恋愛等の近代思想を盛り込んであらわれた〈新小説〉の,最初にして最大の作家が李人稙といえよう。代表作に《血の涙》(続編は《牡丹峰》と改題),《鬼の声》等がある。《血の涙》は日清戦争戦火のなかで日本軍医に助けられた朝鮮の少女玉蓮が,日本で育ちやがてアメリカに渡って新教育をうけ,父親と劇的再会とげ,具完書と婚約するまでの物語で,新教育思想や婦人問題などがとりあげられている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「李人稙」の意味・わかりやすい解説

李人稙
りじんちょく
Yi Injik

[生]哲宗13(1862).京畿道,利川
[没]1916.11.25. ソウル
朝鮮,大韓帝国時代の小説家ジャーナリスト。号,菊初。李海朝,崔 瓚植と並ぶ新小説の代表的作家。光武4 (1900) 年韓国政府留学生として政治学と法律学を学ぶ。日本の新派劇や小説に親しみ,帰国後は『万歳報』の主筆となり,同紙に新小説『血の涙』 (06) を連載。この小説は従来の「古典小説」の文体とテーマを完全に脱皮した作品で,朝鮮近代文学の出発の契機となった。同 11年『万歳報』を引受けて『大韓新聞』を創刊。作品はほかに『鬼の声』 (06~07) ,『雉岳山』 (07) などがある。新劇の開拓者でもあり,円覚社を中心に『銀世界』 (08) などを自作自演して文化面で活躍したが,政治的にも李完用首相の秘書として活動した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「李人稙」の意味・わかりやすい解説

李人稙
りじんちょく / イインジク
(1862―1916)

朝鮮の文学者、言論人。号は菊初。京畿(けいき)道利川出身。大韓帝国政府留学生として日本で政治、法律を学んで帰国。1906年『万歳報』主筆、1907年『大韓新聞』社長。民主主義、自主独立、新教育など近代思想を鼓吹した「新小説」の最大の作家として位置づけられる。代表作『血の涙』(1906)は、日清(にっしん)戦争の戦火のなかで日本軍医井上に助けられた朝鮮の少女玉蓮が井上の養女として日本で育ち、やがてアメリカに渡って新教育を受け、成長するまでの物語で、新教育思想や婦人問題などが取り上げられている。一方、日本の近代化への過大な期待にあふれており、作者自身親日派との非難も浴びた。

[大村益夫]

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百科事典マイペディア 「李人稙」の意味・わかりやすい解説

李人稙【りじんちょく】

朝鮮の小説家。号は菊初。日本留学後,1906年《万歳報》に《血の涙》を連載,1907年には《大韓新聞》をみずから創刊。自主独立・近代的教育の必要性を説く〈新小説〉最大の作家で,代表作に《血の涙》(続編は《牡丹峰》と改題),《鬼の声》など。個人的には親日派の官僚李完用に近かった。

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世界大百科事典(旧版)内の李人稙の言及

【朝鮮演劇】より


[古代]
 朝鮮における演劇の始まりは,夫余の迎鼓,高句麗の東盟,濊(わい)の舞天などの祭天儀式における歌舞百戯に求められる。具体的な演目は三国時代のものが知られている。高句麗の舞楽は西域楽の影響を受けて発達したものであり,隋・唐の九部伎や十部伎の中の〈高麗伎〉として知られ,日本にも高麗楽(こまがく)として伝えられた。百済も同じく大陸系統の散楽百戯の影響をうけたが,特に〈伎楽〉を7世紀初めに日本に伝えたことは特記すべきであろう。…

【朝鮮文学】より

…朝鮮における文学の起源は世界の他の文学と同じく,原始社会の歌舞にさかのぼる。《後漢書》や《魏志》の〈東夷伝〉には,夫余,高句麗,濊(わい),馬韓,弁韓など古代部族国家で,5月の播種期,10月の秋収期などに国中の人が集まり,祭天儀式(東盟,迎鼓など)のあと昼夜盛大に飲酒歌舞したと記している。こうした農耕儀礼や宗教的儀式を主宰する巫覡(ふげき)(シャーマン)の祝詞は神話の始源であり,群衆による歌と踊りは民謡の源流である。…

※「李人稙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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