日本大百科全書(ニッポニカ) 「松村禎三」の意味・わかりやすい解説
松村禎三
まつむらていぞう
(1929―2007)
作曲家。京都生まれ。1949年(昭和24)旧制第三高等学校理科卒業。池内友次郎(いけのうちともじろう)(1906―91)と伊福部昭(いふくべあきら)に作曲を師事。最初のオーケトスラ作品『序奏と協奏的アレグロ』(1955)が日本音楽コンクール作曲部門第1位となり、注目を集める。『阿知女(あちめ)』(1957)などの初期の作品にみられる、モチーフ(主題)を反復させるオスティナートの手法は、その後の松村の作品に共通する特徴となる。第17回尾高賞を受賞した『管弦楽のための前奏曲』(1968)ではオスティナートが半音階的になり、テクスチュア(音構成原理)は緻密(ちみつ)になっているが、松村はそれをインドやバリ島の音楽やアジアの遺跡に示唆を得たという。70年代に入ってからの作品は、それ以前と比べて原始主義的な性格は退いているが、『ピアノ協奏曲第1番』(1973)、『ピアノ協奏曲第2番』(1978)ではピアノとオーケストラの各パートにオスティナートを担わせて、松村独特の協奏曲のあり方を提起している。ほかに主要作品として合唱曲『暁の讃歌(さんか)』(1978)、『管弦楽の捧げ物』(1989)など。遠藤周作の同名の小説に基づくオペラ『沈黙』(1993)では、ことばの濃(こま)やかな旋律化により緊迫した劇的持続をつくりだした。『忍ぶ川』(1972)、『龍馬(りょうま)暗殺』(1974)、『深い河』(1995)など映画音楽も多数手がけた。1990年(平成2)紫綬(しじゅ)褒章を受章、93年にはオペラ『沈黙』で毎日芸術賞などを受賞。
[楢崎洋子]
『遠山一行著『遠山一行著作集』第1巻(1986・新潮社)』▽『相沢啓三著『音楽という戯れ』(1991・三一書房)』