枯葉剤(読み)かれはざい(英語表記)Agent Orange

翻訳|Agent Orange

精選版 日本国語大辞典 「枯葉剤」の意味・読み・例文・類語

かれは‐ざい【枯葉剤】

〘名〙 ベトナム戦争米軍が撒いた除草剤通称猛毒ダイオキシンが混入されていたため、人と自然への影響と残留性が大きな問題になった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「枯葉剤」の意味・わかりやすい解説

枯葉剤
かれはざい
Agent Orange

除草剤一種ベトナム戦争アメリカ軍が使用したことで知られ,その代表的なものをオレンジ剤(エージェントオレンジ)という。1962~71年に南ベトナム解放民族戦線と北ベトナム軍の勢力が潜伏していそうな森林地帯で木々を枯死させ,食料となりうる農作物を処分することを目的として低空飛行する航空機から散布された。成分は,非精製ブチルエステルの 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸2,4-D)と 2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)がほぼ同量であった。加えて少量の 2,3,7,8-テトラクロロジベンゾパラジオキシン(2,3,7,8-TCDD)もさまざまな割合で含まれていた。2,4,5-T製造過程の副産物である 2,3,7,8-TCDDは一般にダイオキシンと呼ばれ,有毒である。ベトナムに散布された約 5000万lの枯葉剤にはダイオキシン約 170kgが含まれていた。1970年代以降,ベトナム人の間では枯葉剤にさらされたことが原因とみられる流産,皮膚疾患,癌,先天性欠損症,先天性奇形が異常に高い頻度で発生している。また,ベトナムで長期にわたって枯葉剤にさらされたアメリカ合衆国,オーストラリアおよびニュージーランドの兵士多数がのちに癌その他の健康被害を経験している。アメリカの退役軍人らはアメリカ軍向けに枯葉剤を生産した農薬メーカー 7社に対して集団訴訟を起こした。両者は和解にいたり,約 25万人の被害者と家族のために 1億8000万ドルの補償基金が設立された。(→枯葉作戦

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百科事典マイペディア 「枯葉剤」の意味・わかりやすい解説

枯葉剤【かれはざい】

ベトナム戦争中の1967年以降,米軍が森林を枯死させるために使用した化学兵器の1種。2,4,5-T(トリクロロフェノキシ酢酸)と2,4-Dを混合してつくった除草剤〈エージェント・オレンジ〉の通称。2,4,5-T系の2,3,7,8-四塩化ジベンゾダイオキシン(略称TCDD)には,1969年米国で行われた動物実験により,遺伝子に突然変異を起こさせる性質があることが明らかになり,さらに1971年には強力な発癌性のあることもわかった。このため米軍はただちに使用を中止したが,広大な森林やマングローブ林(カマウ半島の4万4000ha)が失われ,枯葉剤を浴びた人をはじめとする当該地域の人々の多様な症状に加え,結合体双生児や無脳症などの先天異常児の出産や死産などが相次いだ。また参戦した米国などの〈ベトナム帰還兵〉の中に精神神経障害やリンパ腺癌,腎臓癌などを病む者が多数出現,帰還兵らが原告となり,米国政府と枯葉剤を製造したダウ・ケミカル社など化学会社7社を相手どり損害賠償請求訴訟を起こした。1984年5月,米国上院は,政府として補償するよう求める法案を全会一致で可決した。
→関連項目有機塩素化合物

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世界大百科事典(旧版)内の枯葉剤の言及

【化学兵器】より

… 対植物剤として除草剤2,4‐D,2,4,5‐Tなどがある。アメリカ軍はベトナム戦争においてゲリラの隠れ家と食糧源を破壊する目的で〈枯葉作戦〉を実施,大量の除草剤(枯葉剤と呼ばれた)を散布した。このため熱帯の密林に長期間の生態系破壊をもたらしたほか,不純物として含まれる2,3,7,8‐テトラクロロジベンゾ‐p‐ジオキシン(一般にTCDDあるいはダイオキシンと呼ばれる)の強力な発癌性,胎児への催奇性などが,住民および散布に参加した米兵に悲惨な災害を与えつつある。…

【ダイオキシン】より

…ダイオキシン類は,癌や先天異常などのさまざまな健康障害を生じさせると考えられているが,その作用メカニズムには不明な点が多い。 ダイオキシン類の毒性が問題になった事件にはベトナム戦争時の枯葉作戦があり,アメリカ軍が散布した枯草剤(枯葉剤)の中にダイオキシン類が混入していたために,ベトナム人およびアメリカ軍兵士に被害が現れた。また1976年イタリアのセベソで化学工場の爆発が起こり,生成したダイオキシンが周辺都市部に降り注ぎ,住民に健康被害が出た。…

※「枯葉剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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