将来生ずることが予想される不特定の債権を,極度額の範囲内で担保する抵当権。銀行とその取引先との継続的信用授受関係や問屋と小売商人との間の継続的物品供給関係等においては,多数の債務が生じたり,弁済されて消滅したりというように増減変動するが,それらを一括して担保するために設定される。根抵当について,民法起草者はとくに規定をおかなかったが,すでに民法施行前から存在しており,民法施行後まもなく判例によって認められた。しかし第2次大戦後,根抵当はますます頻繁に活用され,判例法では解決しきれない問題点が生じてきた。とくに,当事者の継続的契約関係から派生しないいっさいの債権を担保させるという包括根抵当が実際に行われるに至り,その有効性をめぐって議論が紛糾した。そこで,これら種々の問題点を立法的に解決する必要が生じ,1971年に民法が一部改正されて,根抵当に関する条文が追加された(民法398条ノ2~398条ノ22)。普通抵当と比較して,次の点に根抵当の特色を見ることができる。
(1)被担保債権 まず,根抵当は〈不特定の債権〉を担保する。したがって,根抵当権設定当時未成立で,しかも将来成立するかどうか未定の債権であっても,被担保債権たりうる。この点で,普通抵当の被担保債権が,現存しないまでも特定していなければならないとされる(〈成立における付従性の原則〉とよぶ)のとは異なる。また,被担保債権は入替え可能であり,この点で,普通抵当では被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅する(〈消滅における付従性の原則〉とよぶ)のとも異なる。しかし,包括根抵当は認められておらず,被担保債権の範囲は次の四つに限られる(398条ノ2-2,3項)。(a)債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるもの,(b)債務者との一定の種類の取引によって生ずるもの,(c)特定の原因に基づき債務者との間に継続して生ずる債権,(d)手形・小切手上の請求権,である。以上の債権については,極度額までなら,確定した元本のほか,利息その他の定期金および債務不履行によって生じた損害賠償のすべてを担保する(398条ノ3-1項)。
(2)内容変更と処分 まず,被担保債権につき債権譲渡,債務引受けがなされても根抵当権は影響を受けず,また,元本確定前に代位弁済がなされても根抵当権については代位が否定される(398条ノ7)。すなわち,根抵当権については,担保物権の通有性である〈随伴性〉が否定されているのである。なお,根抵当権者または債務者につき,相続が生じた場合は,とくに合意がなければ元本は確定し(398条ノ9),合併が生じた場合は原則として根抵当権が承継されるとされている(398条ノ10)。被担保債権の範囲および極度額は,合意で変更しうるが,極度額の変更には他に影響を与えるので利害関係人(後順位抵当権者,差押債権者,転根抵当権者等)の同意が必要とされる(398条ノ4,398条ノ5)。次に,根抵当権者は,転抵当を除き抵当権の処分(抵当権もしくはその順位の譲渡,放棄)ができない。そのかわり,元本確定前において,被担保債権と切り離して根抵当権だけを譲渡すること(398条ノ12)および,根抵当権を一部譲渡すること(398条ノ13)が認められている。
(3)確定 根抵当権は,一定の要件が存すると,優先弁済される被担保債権が特定されて新陳代謝はしなくなる。これを,〈根抵当権の確定〉または〈元本の確定〉という。確定により,利息や損害金について極度額まで担保されることのほかは,ほとんど普通抵当と同じものになる。しかし,根抵当の特殊性にかんがみ,確定後において,設定者の〈極度額減額請求権〉(398条ノ21)と物上保証人等が極度額相当を支払うことによる〈根抵当権消滅請求権〉という,二つの制度がとくに認められている(398条ノ21,398条ノ22)。
→担保物権 →抵当権
執筆者:内田 貴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保する」抵当を根抵当という(民法398条の2~398条の22)。たとえば、問屋と小売商との間や銀行と企業との間では、信用取引が継続的かつ頻繁に行われている。商品の売買や金の貸付、代金の支払いや借入金の返済が継続的に行われ、それに応じて個々の債権は発生したり消滅したりしている。このような場合に、問屋や銀行が普通の抵当権を設定して債権を担保しようとすれば、個々の債権が消滅するにしたがって抵当権は消滅するから、個々の債権が発生するごとに問屋や銀行は抵当権を設定しなければならないことになる。このような不便な結果を回避するために、取引の慣行として行われていたものが根抵当権である。
すなわち、継続的な取引において将来生じるであろう多数の債権を、債権額の合計が一定の額を超えない限度において担保する抵当権が設定されるようになった。このような抵当権は、将来の債権を担保するものであり、また、個々の債権が消滅してもそれに伴って消滅することがないという点において、普通の抵当権の性質に反するものである。そこで、かつては、根抵当権が有効であるか否かが争われたが、判例はその有効性を認めてきた。1971年(昭和46)に民法が一部改正されて第398条の2から第398条の22までの条文が追加され、現在では根抵当につき明文の規定が置かれている。
根抵当権は、特定の債権を担保するわけでない点、および、被担保債権の額が一定でなく変動するものである点において、普通の抵当権と異なるが、そのほかの点については普通の抵当権と異なるものでない。しかし、前述の差異に基づいて根抵当権は特別に扱われる。第一に、どのような取引によって生じた債権が担保されるのか、つまり被担保債権の範囲を契約(根抵当権設定契約という)であらかじめ決めておかなければならない(民法398条の2第2項)。第二に、根抵当権によって担保される債権の総額(極度額という)を契約で決めておかなければならない。これらは、根抵当権設定契約においてかならず定められなければならない事項であり、かつ、登記を必要とする(不動産登記法88条2項1号)。
そして第三は、根抵当権の確定である。根抵当権は、債務が弁済されないときに債権者が優先弁済を受けることを内容とするが、どの債権につき優先弁済を受けることができるのかを確定しないと、債権者が優先弁済を受ける額が定まらない。そこで、根抵当権の確定という制度により、根抵当権が担保する債権はどの時点での債権であるか、その債権が確定される。この制度により根抵当権が確定されると、その根抵当権は普通の抵当権と基本的には異ならないようになる。したがって、根抵当権はその確定の前後において性質を大きく異にする。根抵当権がいつ確定されるかは重要なことであり、当事者は、確定の日を根抵当権設定契約で定めておくことができる(民法398条の6)。これを定めたときには、登記を必要とする(不動産登記法88条2項3号)。また、当事者は、確定の日を定めないままにしておくこともできる。このときには、根抵当権は、当事者の確定請求(民法398条の19)または法定の事由によって確定する(民法398条の20)。
[高橋康之・野澤正充]
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