改訂新版 世界大百科事典 「債務引受け」の意味・わかりやすい解説
債務引受け (さいむひきうけ)
第三者(債務引受人)が債務者に代わって,同一の債務を負担すること。民法にはこれに関する規定はないが,判例・学説ともに認めている。甲に対する乙の100万円の債務を丙が引き受けた場合には,乙は債務を免れ,丙が甲に対して100万円の債務を負担することとなる。この意味で,この(狭義の)債務引受けは,免責的債務引受けまたは免脱的債務引受けとも呼ばれる。ところで,債務が履行されるかどうかは,債務者の人がらや財産状態によって左右されるから,債権者にとっては,債務者がだれであるかが,最大の関心事である。したがって,債権譲渡の場合とは異なり,債務引受けにおいては,債権者の意向を無視することはできない。債権者・債務者・債務引受人の3者間で債務引受けが約定されるときには,なんら問題はない。しかし,債務者・債務引受人間の契約で債務引受けがなされたときは,債権者の同意または承諾がなければ,債務引受けは効力を生じない。また,他人の債務を担保するため物上(ぶつじよう)保証人や保証人が存在する場合には,これらの者の承諾がなければ,引き受けられた債務は担保されないこととなる。なお,債権者と債務引受人間の約定で債務引受けをなしうるかは,問題であるが,利益といえども本人の意思に反して押しつけることは妥当でないから,債務者の同意を要すると,解すべきである。
債務者の負担するのと同一の債務を第三者(債務引受人)が重ねて負担することを,重畳(ちようじよう)的債務引受けないし添加的債務引受けという。この場合には,債務者は従前どおり債務を負担し続ける点で,免責的債務引受けとは異なる。したがって,(広義の)債務引受けには,免責的債務引受けと重畳的債務引受けが含まれる。重畳的債務引受けは,債権者と債務引受人との間でなされるのが本則であるが,債務者と債務引受人間でもなしうる。この場合には,債権者は有利になることはあっても,不利益をこうむることはないから,免責的債務引受けの場合のように,債権者の同意または承諾を問題とすべきでない。ところで,重畳的債務引受けがなされると,同一の債務について,債務者が複数存在することとなる。この場合一般的には,不真正連帯債務(〈連帯債務〉の項参照)関係を生ずるとされる。甲に対する乙の100万円の債務について,丙が重畳的に債務を引き受けたとすれば,甲は乙丙いずれからでも100万円の弁済を受けられることとなり,乙丙間の内部関係は両者間の契約などによって処理されることとなる。
→債権・債務
執筆者:石田 喜久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報