翁問答(読み)オキナモンドウ

デジタル大辞泉 「翁問答」の意味・読み・例文・類語

おきなもんどう〔おきなモンダフ〕【翁問答】

江戸前期の教訓書。2巻。中江藤樹著。寛永17年(1640)ころ成立。慶安3年(1650)刊。孝行中心とする道徳哲学を、わかりやすく問答形式で説いたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「翁問答」の意味・読み・例文・類語

おきなもんどうおきなモンダフ【翁問答】

  1. 江戸時代の随筆的教訓書。五巻、または二巻。中江藤樹著。初版は寛永二〇年(一六四三)だが、後しばしば改稿し、慶安二年(一六四九)の刊本改正編を付した慶安三年刊本などがある。天君という老翁と体充という門下との問答形式によって「孝」を中心とする藤樹の道徳哲学を啓蒙的に説いたもの。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「翁問答」の意味・わかりやすい解説

翁問答
おきなもんどう

江戸初期の儒学者中江藤樹(とうじゅ)の著。1640年(寛永17)から翌41年にかけて、藤樹33~34歳のおりに書かれた。天君(てんくん)という師と躰充(たいじゅう)という門人との問答の体で記されており、上(本・末)、下(本・末)の2巻からなる。成立時期は、藤樹の「中期」に属し、藤樹が大乙(たいいつ)神信仰を始めた時期とちょうど重なる。儒道五倫(ごりん)の道、真の学問と偽の学問、文と武、士道、軍法、仏教神道などが論ぜられているが、なかでも心学(しんがく)の提唱と普遍道徳としての孝説が注目される。すなわち藤樹は、人が単に外的規範に形式的に従うことをよしとはせず、人の内面(心)の道徳的可能性を信頼し、人が聖人の心を模範として自らの心を正しくすることこそが、人に真の正しい行為と正しい生き方をもたらすと説き(心学の提唱)、また父祖への孝のみでなく、いっさいの道徳を包括するところの孝の道を説いた。

[玉懸博之]

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改訂新版 世界大百科事典 「翁問答」の意味・わかりやすい解説

翁問答 (おきなもんどう)

中江藤樹の著書。1641年(寛永18)に成立。藤樹死後の49年に丁子屋仁兵衛より刊行された5巻5冊本が正規の最古版。翌年に訂正,再構成を行い,改正編を付載した5巻5冊本を風月宗知より出版。以後の出版はこの2系統のどれかに準拠。かな文の問答体の儒教入門書として,江戸時代の末まで広く流布した。藤樹が朱子学から陽明学に転じた時期の思想形態がうかがえる。《藤樹先生全集》第3冊,《日本思想大系》29などに所収。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「翁問答」の意味・わかりやすい解説

翁問答
おきなもんどう

中江藤樹の著。寛永 18 (1641) 年の作。その後数回修正された。藤樹がまだ陽明学に完全に転じていない 34歳頃のもので,朱子学的思想を濃厚に示している。上 (本,末) ,下 (本,末) 2巻と,その補遺と考えられる改正編から成る。老翁天君という師と躰充という門人との問答体で書かれている。孝を父母先祖に対するものとしてのみならず,一切の道を統括するものとして根幹的にとらえ,心法,五倫,真の学問とにせの学問,文武,軍法,法と学問,士道,神道,仏教など多方面にわたって論じ,なかんずく,仏教排斥の論は藤樹著述中最も詳しい。改正編は,のちに陽明学的立場からの改正を意図したものである。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「翁問答」の解説

翁問答
おきなもんどう

中江藤樹(とうじゅ)の著書。1640~41年(寛永17~18)頃成立。上下2巻とその後加えられた改正編からなる。老翁と門人の問答の形で朱子学の道徳理論を孝の道理という理解しやすい表現で説いている。藤樹自身はこの書の内容を不満として公刊の意図はなかったが,没後の49年(慶安2)無断で刊行されたため,翌年門人の手で改正編を付して出版され,江戸時代を通じて広く読まれた。「岩波文庫」「日本思想大系」所収。

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世界大百科事典(旧版)内の翁問答の言及

【道】より

…道という言葉自体が備えているこの二重性が,奥底のところでこの概念のあり方を規定していることを見落とすべきではない。〈子孫に道をおしへずして子孫の繁昌をもとむるは,あしなくて行ことをねがふにひとし〉(中江藤樹《翁問答》)は,道の意味するところをよく表している用例だが,上記の2義を想定してこれをみることが留意すべき点である。とりわけ,究極のところ道は実在するものであることを明らかな前提となしえて言述が組み立てられている点はおさえておく必要がある。…

※「翁問答」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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