梶取(読み)かじとり

百科事典マイペディア 「梶取」の意味・わかりやすい解説

梶取【かじとり】

〈かんどり〉ともいう。船の長として舵をとって漕いだものの称で,のちの船頭に連なる。古代律令制下では調など貢納物の輸送民間海人漁民を雇用して梶取とする例が多かった。律令制が衰退し,荘園年貢公事物などを船で運搬することが多くなると,荘官名主(みょうしゅ)などに給田を支給して梶取とし,輸送の全責任を負わせることが増えていった。荘園領主の支配と無関係の独立した梶取も少なくなかったが,荘園の名主的梶取も他荘の年貢輸送を引き受けたり,私的な商行為を行ったりして,徐々に独立性を高め,より大規模な流通業者として成長していった。
→関連項目水手鹿田荘

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改訂新版 世界大百科事典 「梶取」の意味・わかりやすい解説

梶取 (かじとり)

古代から中世に,一船の長として船の舵をとって漕いだものの呼称で,のちの船頭に連なる。古くは挟杪,柁師などとも書いた。律令制下,調・庸・舂米しようまい)など国家貢納物の輸送には,民間の海人や漁民を徭役あるいは雇用して,梶取とすることが多かった。律令制が衰退して荘園年貢の輸送が盛んになると,水域に臨む荘園では荘官や名主などに一定の給免田を給与して梶取とし,輸送の全責任を負わせる場合が多かった。もともと荘園領主の支配外の独立した梶取も少なくなかったが,荘園の名主的梶取も,自荘に輸送の便宜を持たない他の内陸荘園の年貢輸送を引き受けたり,自己の私物を船に積んで商行為を行ったりして,しだいに独立・成長を遂げた。すでに鎌倉中期には筑前今津や遠賀川等の遠隔地にも富裕な梶取が存在していたが,その後の商品流通の発展は,開放され,より充実した輸送機構を必要としたため,梶取の成長が促進され,より大規模な交通業者へと発展させていった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「梶取」の意味・わかりやすい解説

梶取(かじとり)
かじとり

「かんどり」「かとり」とも読み、古代では「挟抄」「柁師」とも書いた。古代から中世・南北朝時代ごろにかけての船の舵(かじ)をとる操船責任者の名称。河川船運の場合は川梶取とよばれた。荘園(しょうえん)・国衙(こくが)領の年貢の中央船送に携わり、反対給付として功食料(くじきりょう)(労賃)を受け、またある場合は、荘園内に梶取給田などを与えられていた。彼らは、国府(こくふ)梶取などという国衙専属の梶取、荘園倉敷(くらしき)所属の梶取、地頭所従(しょじゅう)の梶取など、荘園・公領の支配組織のなかに編成されていた。しかし他方、古代から「賃船之輩(ちんせんのともがら)」といわれているように、早くから自立した廻船(かいせん)業者としての側面も有しており、また、船の所有者となっている場合があったことも見逃せない。このような自立の動向が強まり、さらに輸送船が大型化するなかで、中世後期には、輸送業者としての船頭と操舵(そうだ)手としての梶取が分化していく傾向があり、それが近世に引き継がれた。

[保立道久]


梶取(かとり)
かとり

梶取


梶取(かんどり)
かんどり

梶取

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「梶取」の意味・わかりやすい解説

梶取
かじとり

平安時代末期から中世を通じて,荘園の年貢米を領主のもとに船で運搬する際の責任者。一種の荘官身分で,荘園領主から給田を支給され,水夫 (かこ) を指揮して年貢輸送の全責任を負った。のち,荘園領主から独立し,問丸 (といまる) に転身した。

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世界大百科事典(旧版)内の梶取の言及

【船所】より

…戦時には軍船の徴用も行う。具体例は乏しく,1185年(文治1)周防在庁〈船所五郎正利〉が当国船奉行として源義経の壇ノ浦攻略に数十艘の船を提供したこと,1203年(建仁3)紀伊〈船所書生幷梶取〉が後鳥羽院の熊野御幸渡船料と号して諸国運上物を載せた河船を切り損じたことがみえ,また安芸・隠岐に船所の存在が確認される。なお周防国衙跡に船所の字名が残る。…

※「梶取」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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