櫛歯状の施文具で文様の施された土器の総称。世界各地の各種時期の土器に認められるが,狭義には北欧から西シベリアにかけて分布する新石器時代の土器,また朝鮮半島の新石器時代の有文土器ないし幾何文土器と呼称されるものを指すのが普通である。西シベリアの沿オビ地域の新石器時代の土器(前4千年紀終末~前3千年紀後半)は,すべて櫛目文を有する丸底土器である。このような器面全体を櫛目文でおおう新石器時代の丸底土器は,エニセイ流域のウニュク遺跡(前4千年紀終末~前3千年紀初頭)やアンガラ上流域のウスチ・ベラヤ遺跡第IIa層(前5千年紀)からも出土している。しかし,これら以東の地域では同種の土器は明確ではない。それに代わって,櫛歯状の施文具を用いて連続ジグザグの連弧文を施した新石器時代土器が分布している。なかでも,ザバイカル地方ビチム川流域のウスチ・カレンガ遺跡での縦位方向のジグザグ文土器は,9000年以前と推定され,北アジア新石器土器の中でもっとも古い時期が与えられるものである。同種の土器はザバイカルのノジ湖新石器埋葬墓群のほか,中国東北部の遼寧省富河溝門遺跡でも知られ,横走のジグザグ連弧文土器は瀋陽市新楽遺跡,遼寧省赤峰紅山後第2地点などからも出土している。そして華北の磁山・裴李崗文化にも,ジグザグ連弧文土器が含まれていることが報告されている。以上のような新石器時代初期の例とは別に,金属器時代になると,レナ川支流アンダン流域(前1千年紀後半~後1千年紀)や,極東地方の初期鉄器時代(前2千年紀終末~前1千年紀初頭)に,櫛目文土器が出現する。
執筆者:加藤 晋平 朝鮮の櫛目文土器はユーラシア北部と同様に串状あるいは櫛歯状施文具で,幾何学的な文様を施したものが主体である。盛行した時代を櫛目文土器時代ともいい,ほぼ新石器時代に対応する。朝鮮半島の中でも地域や時期によって多様性を示す。北東部では平底の深鉢が特徴的で,典型的な櫛目文があまり見られないのに対し,南海岸では丸底,尖底,平底のものがあり,典型的な櫛目文のほか,隆起文を施すものが知られる。また時期が下るにつれ,文様が減少する傾向を示し,無文土器時代へ移行する。なお東三洞遺跡では九州の縄文土器とともに出土している。
執筆者:西谷 正
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北方ユーラシアにおける新石器時代を特徴づける土器。丸底、尖底(せんてい)の深鉢(ふかばち)を基本とし、櫛歯様施文具(くしばようせもんぐ)で各種の文様が施されている。ボルガ川上流やその支流のオカ川流域に出現し、フィンランド、中央ロシア、シベリアに波及した。シベリアではエニセイ川流域のクラスノヤルスク、ミヌシンスク両地域に顕著で、アンガラ地方やバイカル湖にも達する。また、中国東北、朝鮮にも同種の土器があるが、シベリアのそれとの関係は明らかではない。
朝鮮の櫛目文土器も新石器時代の土器で、丸底、平底の深鉢を基本とし、各種の幾何学文様が施される。石綿、滑石などを胎土(たいど)中に混入するものがある。地域差があり、中国東北地域、鴨緑江(おうりょくこう)流域では平底、他地域では丸底である。編年の基準となる層位的発掘が行われた遺跡には、咸鏡北道(かんきょうほくどう/ハムギョンプクド)屈浦里(くっぽり)の西浦項(せいほこう)貝塚と釜山(ふざん/プサン)広域市の東三洞(とうさんどう)貝塚がある。西浦項貝塚では5期に分けられ、時期が新しくなると雷文(らいもん)が出現したり、終末には無文化する。西部、南部では時期が新しくなると波状点線文がみられる。遺跡は海岸や河岸近くに分布し、貝塚を形成することが多い。狩猟、漁労を主とするが、後半には凸字形石斧(せきふ)、石鎌(いしがま)、石鍤(いしすき)やイノシシの牙(きば)でつくられた鎌などがみられることから雑穀栽培が行われたようである。紀元前7、8世紀ごろに無文土器に変わると考えられる。櫛目文土器は九州の縄文時代前期の曽畑(そばた)式土器成立になんらかの影響を与えたようで、縄文時代における海峡を越えた交流をうかがわせる。
[定森秀夫]
『金廷鶴著「幾何学文土器」(『韓国の考古学』所収・1972・河出書房新社)』▽『韓炳三著「櫛目文土器」(『世界陶磁全集17 韓国古代』所収・1979・小学館)』
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ユーラシア大陸の北部に分布の,櫛歯様の施文具をもって陰刻(いんこく)した幾何学文様を持つ土器。器形は尖底(せんてい)または丸底砲弾形で,斜めの短線を横につらねた帯状文,または大型点紋ないしは刺突文(しとつもん)をつける。ヴォルガ川上流,オカ川流域に発生,フィンランド,中央ロシア,シベリア,イェニセイ川流域のクラスノヤルスク,ミヌシンスク地方に多い。内モンゴル,朝鮮半島にも分布。
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