改訂新版 世界大百科事典 「歯肉出血」の意味・わかりやすい解説
歯肉出血 (しにくしゅっけつ)
gingival bleeding
歯肉からの出血は,機械的な外力により歯肉が傷つけられて起こるが,このほか局所的な疾患や全身疾患のために歯肉から自然に出血することもある。局所的原因には外傷,種々の炎症,腫瘍などがあり,全身的原因には,ビタミンC欠乏症,出血傾向ないし出血性素因あるいは血液疾患,歯肉炎の原因となる全身疾患などがあげられる。局所的原因により起こるものは多くは一時的で,容易に止血しうる。全身的原因によるものは歯肉のみに限らず身体の他部にも出血傾向がみられ,出血は持続的で止血困難な場合が多い。慢性辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)では歯周ポケットからの出血,排膿,歯肉縁の腫張,歯の動揺があり,これらの症状は白血病の口腔症状と非常によく似ているので,鑑別診断が重要である。このほか血液疾患に属するものでは悪性貧血,再生不良性貧血,紫斑病,無顆粒球症などの場合に歯肉出血がみられ,潰瘍を形成し,二次的感染を起こして壊疽(えそ)性歯肉炎となる。また,ビタミンC欠乏症,糖尿病,尿毒症,肝硬変などの場合にも歯肉縁から出血をみる。狭心症,心筋梗塞(こうそく),人工弁使用中の患者では,血栓形成予防のために抗凝血剤を長期間用いていると出血傾向となり,歯肉ポケットから出血するようになる。薬物中毒として,水銀,ビスマス剤,鉛などにより歯肉炎から潰瘍を形成して歯肉出血をきたす場合がある。また,副腎皮質ステロイドやACTH,フェニルブタゾン,ジフェニルヒダントイン,アスピリンなどは血管炎を起こし,歯肉縁からの出血をみる。また,最近注目されてきたDIC(播種性血管内凝固)は,ショック,外傷,敗血症,悪性腫瘍などから起こるといわれており,出血傾向となって歯肉出血をみる。代用血漿剤のデキストラン製剤によっても出血傾向となって歯肉出血が起こったという報告がある。
執筆者:塩田 重利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報