翻訳|precession
一般には回転する物体の回転軸の方向が変わる運動をいう。回転する物体はその角運動量を保とうとする性質があり,これに偶力が作用するとそのモーメントの方向(その偶力で右ねじの進む方向)に角運動量の変化を生ずる。軸のまわりに角速度ωで回っているこまは,軸方向(回転方向に右ねじを回したとき右ねじの進む向き)の角運動量Lをもつ。Lの大きさLはωに比例し,比例定数が慣性モーメントである。このこまが図aのように傾いたとすると,重力と抗力がつくる偶力はこまの軸を右へ回して倒そうとするように働くが,そのモーメントは紙面に垂直に向こう向きのベクトルNで表される。このため,角運動量にそれと同じ向きの変化を生ずるが,微小時間dtの間に生ずるLの変化dLはdL=Ndtで与えられ,Nと同方向である。もしこまの下端Oが(床の小さいくぼみにでもはまっていて)固定されていれば,このLの変化によってこまの上端Aは紙面に垂直に向こう向きに動くことになる。このようなことが次々と起こるから,結局AはOを通る鉛直軸OHのまわりで図のような円を描くことになる。このようなこまの首振り運動が歳差運動である。
重心を固定したこまでは,重力はモーメントをもたないから,角運動量Lは変化しない。こまの軸の方向を最初に固定すれば,そのまま動かない。しかし,最初この軸を回すようなモーメントを与えると,LのほかにL′のような角運動量が加わり,全角運動量L+L′が一定に保たれることになる。図bは,aのこまの場合と比較しやすいように,L+L′が鉛直上向きの場合を示す。Lの方向で示された回転軸は,一定で変化しないベクトルL+L′の方向のまわりで歳差運動をする。
なお,歳差運動によって生ずる現象のうち,周期的な部分を章動nutation,非周期的な部分を歳差と呼んで区別することもある。磁場の作用下で,粒子あるいは粒子系の,磁気モーメント(または角運動量)のベクトルが磁場方向を軸として回転する現象をラーモアの歳差運動というが,この場合に現れるのは章動のみである。
→独楽(こま)
執筆者:小出 昭一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
剛体が回転運動をしているとき、外力のモーメントが付け加えられると、その回転軸が周期運動をする現象をいう。たとえば、こまが、重力によって倒れようとするとき重力のモーメントが加わると、こまの回転軸は「みそすり運動」をするが、これは歳差運動の一種である。剛体の場合、角運動量ベクトルLの時間的変化が力のモーメントのベクトルNに等しい。これは、質点の場合の、運動量ベクトルPの時間的変化は力のベクトルFに等しいというニュートンの運動方程式F=dP/dtに似ている。PをLに、FをNに対応づければよい。
したがって、質点の円運動を考えると、これは、剛体では歳差運動に対応する。質点の円運動では、そのままでは引力Fによって質点は中心に引き込まれるが、回転をすることによってPの変化が生じ、この力に逆らう力(慣性力)が発生し、力がつり合う。これと同じように、回転している剛体に外から力のモーメントNが付け加わると、そのままでは不安定になるが(こまなら倒れてしまう)、角運動量ベクトルLの時間的変化によって、新たな力のモーメントが発生し、つり合う。Lの変化が回転軸の変化に対応づけられ、歳差運動となるわけである。歳差運動は、こまのみそすり運動ばかりでなく、ヨーヨーの「からみつき」、天体の自転軸の変化(歳差)、磁場中での原子核の自転軸の変動など、いろいろな分野に現れる。
[大槻義彦]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…地球の歳差運動によって起こる太陽年(回帰年)と恒星年の1年の差,または〈こま〉や地球の歳差運動のこと。 ニカエアのヒッパルコス(前190ころ‐前125ころ)は自分の恒星位置の観測と,150年前のアレクサンドリアのティモカリスの観測とを比較して,その位置の変化に気がついた。…
※「歳差運動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新