太陽と月の引力によっておこる地球の自転軸の変動のうち、歳差以外の、比較的短い周期の規則的変化。太陽や月などの天体が及ぼす引力が地球上の場所によってわずかに異なる分の差によって働く力は潮汐力(ちょうせきりょく)とよばれる。潮汐力は地球を月や太陽の方向に引き伸ばす働きをする。潮汐力が地球の赤道部分の膨らみに作用すると、地球の向きを変えようとする偶力となる。これによって地球の自転軸は、止まる寸前のこまの首振り運動のように重心を頂点とする円錐(えんすい)を描く。これを歳差運動というが、このうちもっとも長い周期(約2万6000年)の変動を歳差とよび、短い周期のものを章動とよぶ。太陽と月が地球に及ぼす引力の強さと向きは、公転運動の性質を反映して半月、半年、18.6年などの周期で規則的に変わる。それに応じて地球もさまざまな周期の首振り運動を行うが、このような短い周期のものが章動である。なお章動では極運動と異なり地球上の極(自転軸と地表の交点)の位置はほとんど変わらない。
章動は多数の周期成分からなっているが、代表的なものは赤道面(地球の自転軸に垂直な平面)と黄道面(地球が公転運動を行う平面)の23度26分の傾きを原因とする半年周と半月周の章動、白道面(月の軌道面)が黄道面に対して約5度の傾きを保ち、しかもその向きが18.6年の周期で変化することによる18.6年周章動、地球と月の軌道が楕円(だえん)形であるために生じる年周と月周の章動などである。最大の18.6年周章動でさえ振幅が9秒角にすぎない微小な運動であるが、1747年にJ・ブラッドリーによって発見されて以来、位置天文学の研究対象として精密観測され、理論的に予測される位相や振幅との比較が行われてきた。章動は地球の内部構造、とりわけ地球深部の流体核の影響を強く受けるため、その性質を利用して流体核の粘性や核マントル境界の形状などを調べる研究に役だっている。明治期の緯度観測によって木村栄(ひさし)が発見した有名な年周z項も章動に及ぼす流体核の影響が原因であった。星の視位置を予測するには、あらかじめ章動の効果を考慮に入れておく必要があるので、章動の各周期成分の理論計算値は、国際天文学連合が定める天文定数の一つになっている。
[日置幸介]
『若生康二郎編『現代天文学講座 第1巻 地球回転』(1979・恒星社厚生閣)』▽『吉田正太郎著『宇宙の広さは測れるか』(1985・地人書館)』▽『天文年鑑編集委員会編『天文年鑑活用ハンドブック』(1987・誠文堂新光社)』▽『斉田博著『天文の計算教室』新装版(1998・地人書館)』
回転体の歳差運動に伴って起こる,短周期で微小な回転軸の上下運動。身近な例では,〈こま〉の回転で観察される。
太陽と月の引力によって起こる,地球自転軸の空間に対する運動のうち,歳差運動以外の周期的成分をいう。非常に多くの項があるが,18.6年,半年,半月の成分が卓越している。1747年イギリスのJ.ブラッドリーが発見した18.6年成分をとくに主要章動,その係数9.″21を章動定数と呼ぶ。章動の用語は,中国の古代に,19年間に7回の閏日を入れて,季節と月の朔望を合わせた暦法があり,19年を1章と呼んだことに由来する。主要章動は長径約9.″21,短径約6.″96の反時計回りの楕円を描く(図のεは地球の軌道面と地球の赤道面のつくる角度で,黄道傾斜角と呼ばれるもの)。天文章動には,長い間S.ニューカムの決めた数値を定数として使ってきたが,1984年から新定数に改められることになった。これまで剛体地球によって求められた数値は,観測値と違うことが指摘され問題となっていた。地球内部の流体核を考慮した,現実地球モデルによる章動理論は,この差を説明することに成功したのが改正の動機となった。木村栄の発見した年周Z項の原因は,半年周期章動の係数に対する剛体理論値と流体核地球の理論値との差によって説明された。
極運動の一成分で,周期約430日のチャンドラー周期,または周期305日のオイラー周期をいう。これらは天文章動が外部天体の引力によって強制的に起こることと異なり,外力のない場合の地球の回転運動であって,地球自身に対する自転軸の運動である。この運動を回転する地球の上から見たのが極運動である。地球に流体核が存在することによって,周期が約1日の自由章動が起こることが理論的に予言されている。これを自由コア(核)章動,または準日周自由章動という。
→歳差 →歳差運動
執筆者:若生 康二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…Lの方向で示された回転軸は,一定で変化しないベクトルL+L′の方向のまわりで歳差運動をする。 なお,歳差運動によって生ずる現象のうち,周期的な部分を章動nutation,非周期的な部分を歳差と呼んで区別することもある。磁場の作用下で,粒子あるいは粒子系の,磁気モーメント(または角運動量)のベクトルが磁場方向を軸として回転する現象をラーモアの歳差運動というが,この場合に現れるのは章動のみである。…
…地球の自転軸の方向の天球における見かけの位置を測定するための天体写真望遠鏡。これによって,自転軸のみそすり運動の反映である歳差と章動および地球の公転速度を表す光行差定数を決定する。天の北極に向けて固定した望遠鏡で星野を長時間撮影すると,北極星など極周辺の恒星は大小の円弧状に写るが,各円弧の中心は同一点であり,これが恒星天に対する自転軸の方向である。…
…Lの方向で示された回転軸は,一定で変化しないベクトルL+L′の方向のまわりで歳差運動をする。 なお,歳差運動によって生ずる現象のうち,周期的な部分を章動nutation,非周期的な部分を歳差と呼んで区別することもある。磁場の作用下で,粒子あるいは粒子系の,磁気モーメント(または角運動量)のベクトルが磁場方向を軸として回転する現象をラーモアの歳差運動というが,この場合に現れるのは章動のみである。…
…一方,赤道と月の軌道である白道との交点は約18.6年周期で黄道上を逆行するため,月による偶力は周期的に変化し,地球の自転軸の空間的位置は歳差運動に重なった約18.6年周期で振動する。また,地球と月,太陽の距離が変動することによる偶力の変化などのため,この周期以外にもさまざまな周期の振動があり,これらを含めて章動という。章とは古代中国暦法で19年を意味する。…
※「章動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
東海沖から九州沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)沿いで、巨大地震発生の可能性が相対的に高まった場合に気象庁が発表する。2019年に運用が始まった。想定震源域でマグニチュード(M)6・8以上の地震が...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新