日本古代の律令国家でおこなわれた徭役制度。租・調・雑徭(ぞうよう)と並ぶ基本税目の一つである。養老令によると,成人男子の歳役は1年に10日と定められており,国司によって徴発され,中央に送られて造宮や造寺の労役に従事させられた。この間の食料は支給されず,自弁が原則であった。政府が必要とする場合には,留役(りゆうえき)といってさらに30日間使役することが認められていた。留役に対しては食料が支給されるとともに租と調が免除された。もちろんすべての男子が歳役に従事するわけではないから,実役に就かない場合には代償として布2丈6尺を徴収された。これを庸(よう)という。歳役(庸)は京・畿内では免除されていた。養老令にみられる歳役制度が大宝令にも存在したか否かについては,存在したとする説と,大宝令には実役の規定がなく,ただ庸として布2丈6尺を徴収する規定だけがあったとする説とが対立している。なお,この制度の手本となった隋・唐の制は正役20日,留役30日,庸による代納制,留役の租調免除が規定されていた。
→雇役(こえき)
執筆者:長山 泰孝
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古代の律令(りつりょう)国家が公民に賦課した徭役(ようえき)の一つ。養老(ようろう)令によると年に10日使役することになっていたが、もし歳役に差点(さてん)(徴発)しない場合は、実役につくかわりに布や米を賦課し、これを庸(よう)と称した。また政府が必要とする場合には、この10日の役のほかに、留役(るえき)といってさらに30日間使役することができたが、その場合には代償として租(そ)と調(ちょう)とが免除された。歳役は、国司の指揮のもとで行われる地方的徭役の雑徭(ぞうよう)と異なり、中央政府の指揮のもとで造宮や造寺にあてられ、往復の食料や10日の就役期間の食料は自弁であった。ただし、大宝(たいほう)令には歳役を実役でとる規定はなく、ただ庸を徴収する規定のみがあったとする見解もある。
[長山泰孝]
『長山泰孝著『律令負担体系の研究』(1976・塙書房)』
正役(せいえき)とも。律令制での労役負担の一つ。養老令では,中央での造宮や造寺のため正丁(せいてい)が年に10日間食料自弁で労役に従事し,次丁は正丁の半分,中男(ちゅうなん)および京畿内では免除され,実役につかないときは庸(よう)として布で納めると規定する。さらに留役として,租・調を減免するかわりに30日間使役を延長することができ,本人のかわりに同郡の人を雇ったり,家人を遣わして代役をさせることもできるとする。しかし大宝令では歳役はすべて庸で納める規定で,実役の徴発はなく,造営などは雇役により行われた。養老令では唐制にならって形式的に歳役を規定するが,実際には庸で納められた。浄御原令において兵役や雑徭(ぞうよう)と並んで実役の役(えだち)が成立するが,大化前代のエダチ(役)の系統を引いたもので実役奉仕のみで代納制は存在しなかったらしい。なお706年(慶雲3)庸の半減にともない役夫の不足を補うために定められた百姓身役制は,かつてのエダチの制を部分的に継承したものと推測される。
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…飛鳥浄御原令(689施行)では,中央の土木工事に徴発される力役は無償であった。しかし,大宝令(701制定)で新しく中央の力役として規定された年10日間の歳役(さいえき)は,実際にはすべて代納品である庸(よう)布2丈6尺でおさめることにし,必要な力役は庸の一部を財源として強制的に差発した。これが雇役で,同じ雇傭であっても強制を伴わない和雇(わこ)と区別されている。…
… すなわち隋・唐の均田制下の人民の負担には,租庸調と雑徭があった(均田法)。このうち庸というのが本来は力役であり,正役または歳役と呼ばれて,年に20日間中央政府の行う土木事業に従事した。これが絹(布帛)で代納されることになったのが庸である。…
…庸は調と一括徴収されたので,多く庸調と連称され,貨幣流通がなお限られ高額取引に多く絹が使われた当代では,諸税の中心的存在であった。租庸調【池田 温】
[日本]
古代の律令国家の税制の一つに,成人男子を年に10日間徭役する歳役(さいえき)とよばれる制度があったが,実役に就かない場合は代償として布2丈6尺を徴収し,これを庸とよんだ。庸の和訓は〈ちからしろ〉,つまり力役の代りという意味で,歳役を表とすると庸は裏にあたるわけである。…
…古代の律令制において,成年男子に課せられた強制労働をさす用語。狭義には,歳役(さいえき)(正役)と雑徭(ぞうよう)とをさしたが,歳役は一般には庸で物納されたので,実役である雑徭だけをさす場合もあり,徭役という用語は強制労働の実役をさすことに重点があった。身体障害者(残疾)や父母の喪中の人に対して徭役を免除するという律令の規定も,実役を免除することに主眼があったと考えられる。…
※「歳役」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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