古代の律令制において,成年男子に課せられた強制労働の一種。年間60日以内,国郡司によって地方の雑役に徴発された。雑徭は中国の律令制の継受にともない,飛鳥浄御原令(あすかきよみはらりよう)で制度化されたが,クサグサノミユキの古訓があり,律令制以前からのミユキの系譜をひく労役であった。ミユキは天皇またはそのミコトモチ(国宰など)が地方に巡行してきたときの奉仕役にその起源があると推定され,地方豪族が地域社会で独自に徴発してきた労役とは別系列の,朝廷のための労役であったと考えられる。したがって初期の雑徭も,朝廷のための労役という性格が強く,日本の雑徭が--唐の律令制とは異なり--調庸とともに課役(かえき)にふくまれるようになるのは,そのような雑徭の性格によるものであろう。大宝律令の施行以後,国司の権限と機能が拡大するのにともない,雑徭を充てておこなわれる仕事の内容も拡大し,とくに道路や堤防の新設,水田開発に不可欠な池溝の新設などに雑徭が充てられ,雑徭は律令国家の地方行政を支える重要な役割を果たした。律令では雑徭日数は60日以内と規定されていたが,実際には国郡司が60日いっぱい使役することが多かったので,757年(天平宝字1)に藤原仲麻呂が政権を握ると,雑徭日数の限度を30日に半減した。この改革は仲麻呂が没落すると廃止されたらしく,795年(延暦14)には再び60日から30日に半減されている。1年間の雑徭徴発の内訳を毎年中央に報告する制度は,奈良時代には成立していなかったと推定されるが,平安初期には諸国から雑徭徴発の内訳を〈徭帳〉に記して報告させる制度が成立し,中央政府は調庸や正税を確保するための代償物として雑徭を操作するようになった。国司の雑徭徴発権は,国司の刑罰権が制約された神戸や伊勢神郡においてまず失われ,国司の権力や権威の低下とともに,なしくずし的に解体していったと推測される。
→徭役
執筆者:吉田 孝
中国中世に行われた徭役の一種で,唐前期には法制的に課(租調役)の外に設けられ,地方の州県が徴発に当たり,丁男・中男を対象とする多目的の臨時的使役であった。毎年県令が差科簿(役務徴発台帳)を按じて必要人数を徴し,官衙,道路,城壁,堤防等の建築修理や,官物の輸送・保管,あるいは城市の警備など比較的単純労働に充てられ,該当者は夫と称し,その労働は制度的に正役の1/2に評価された。年間40日(一説50日)を限度とし,それを大幅に超えると一定の方式で租庸調が免除される規定があった。兵士や郷官をはじめ,官人の従僕に任ずる執衣・白直,城門看守の門夫,駅舎・駅馬を世話する駅夫,水運に使われる水手,灌漑をみはる渠頭(きよとう),のろし係の烽子(ほうし),牢番の典獄等,種々の色役(しきえき)を負担する者は雑徭の対象から除かれたので,雑徭に徴発できる丁が不足する傾向にあり,8世紀には資課とよばれる銭の代納が普及した。唐制をとりいれた日本では課役として雑徭(ぞうよう)があった。
執筆者:池田 温
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律令制での労役負担の一つ。正丁(せいてい)は1年に60日以内(次丁30日,中男15日),国郡司により地方での雑役に徴発された。浄御原令で制度化されたらしいが,古訓はクサグサノミユキで,大化前代からの天皇行幸や使者への奉仕など,ミユキの系譜をひく朝廷のための労役という性格が強い。大宝令施行により国司の権限が拡大し,地方行政に不可欠な労役として範囲が拡大するが,徴発権は実質的に郡司にあった。どの範囲を雑徭としたかは諸説がある。国郡司が限度いっぱい使役するため,757年(天平宝字元)一時期30日に半減し,795年(延暦14)再び30日とされて定着し,京戸のみは銭納で天平年間には正丁120文であった。平安時代になると国司が徴発権を強め,国内の労役はすべて雑徭とされ,中央への徭帳の報告制度も成立し,やがて受領(ずりょう)による臨時雑役制へひきつがれた。雑徭は日本では唐と異なり課役に含まれ,定額税的性格をもっていた。
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唐代の徭役の一種。租庸調が中央政府に直接出されるのに対し,雑徭は地方的な労役を提供するもの。中男,残疾者にも課せられた。丁男の義務日数を40日以内とする説と50日以内とする説とがある。
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…北朝では六丁兵,八丁兵,十二丁兵という交代制の徭役に徴発されたが,隋・唐では兵農一致の府兵制が整備されるにつれ,賦役はふつう兵役を除く力役を指称するようになる。 すなわち隋・唐の均田制下の人民の負担には,租庸調と雑徭があった(均田法)。このうち庸というのが本来は力役であり,正役または歳役と呼ばれて,年に20日間中央政府の行う土木事業に従事した。…
…古代の律令制において,成年男子に課せられた強制労働をさす用語。狭義には,歳役(さいえき)(正役)と雑徭(ぞうよう)とをさしたが,歳役は一般には庸で物納されたので,実役である雑徭だけをさす場合もあり,徭役という用語は強制労働の実役をさすことに重点があった。身体障害者(残疾)や父母の喪中の人に対して徭役を免除するという律令の規定も,実役を免除することに主眼があったと考えられる。…
※「雑徭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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