六訂版 家庭医学大全科 「水尿管症」の解説
水尿管症
すいにょうかんしょう
Hydroureter
(腎臓と尿路の病気)
どんな病気か
尿管が正常よりも拡張している病態をいいます。通常、
原因は何か
尿路通過障害を起こす病気は以下のとおりです。
①先天奇形である腎盂尿管移行部
②
③悪性腫瘍
腎細胞がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、尿道がんなどによるもののほか、他臓器腫瘍として胃がん、結腸・直腸がんなどの消化器がんによるもの、子宮がん、卵巣がんなどの婦人科がんなどによるものなどがあります。これらの腫瘍が尿管・膀胱・尿道に
④
⑤炎症
⑥交通事故や労働災害により、尿管・膀胱・尿道の通過障害を起こした場合
⑦手術に起因するもの
泌尿器科的内視鏡手術である経尿道的前立腺切除術(TURP)や経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBt)後の尿道狭窄や、経尿道的尿管砕石術(TUL)、尿管切石術などの術後の尿管狭窄があります。また、消化器がんや婦人科がんの手術時の尿管損傷によるものもあります。
⑧尿道異物
尿道内に故意に異物を挿入した場合
⑨その他
尿路の通過障害がなくても、尿流の停滞を示す病気によって水腎・水尿管症は生じます。代表的なものとして、膀胱尿管逆流現象と
神経因性膀胱は、脳・
⑩巨大尿管
逆流によるもの、閉塞によるもの、またこの両者によらない非逆流性・非閉塞性巨大尿管の3種類があります。非逆流性・非閉塞性巨大尿管は乳幼児に発見される先天性の病気で、尿管
症状の現れ方・検査と診断・治療
病態が急激に起こった場合には尿管結石の症状と同様に、
先天的な病気では、健診や人間ドックで指摘されるまでは気づかないこともあります。そのため、先天的な病気による水腎・水尿管症は病態としては進行していることが多いのです。
①腎盂尿管移行部狭窄
片側(左側に多い)または両側の腎盂と尿管の移行部の狭窄が原因で、男児に多く起こります。健診・人間ドックで指摘されるまで無症状なこともあり、発見時に著しい水腎症を示していることがあります。
診断は、CTスキャンや静脈性腎盂造影と逆行性腎盂造影(膀胱鏡下に尿管口からカテーテルを挿入して造影する検査法)により行います。機能検査では、腎シンチグラム、レノグラムが行われます。形態的に水腎・水尿管症が改善し、腎機能の改善が得られる見込みがある場合には、年齢などを考慮して手術を行います。
②
静脈系の発生異常によるもので、右尿管が下大静脈の後方を回旋するように走行する病気です。これも健診・人間ドックで初めて指摘されることが多く、自覚症状はあっても右腰背部の鈍痛程度です。
診断は腎盂尿管移行部狭窄と同様な検査を行います。この場合も、水腎・水尿管症の程度、改善の見込み、年齢などによって手術するかどうかを決定します。
③後部尿道弁
男児の後部尿道に弁状の膜ができる先天性の病気です。出生後まもなく排尿状態の不良(尿がしたたるようにしか出ない)や、著しい両側水腎・
このため、腎機能障害を起こしている場合もあり、まず腎機能改善の目的で
⑤泌尿器科領域の悪性腫瘍
腎細胞がんが尿管を圧迫した場合や、腎盂尿管がん・膀胱がん・前立腺がん・尿道がんによる尿路閉塞のため水腎・水尿管症を起こした場合などです。
膀胱がんの場合には、膀胱・腎盂・尿管ともに同じ移行上皮でおおわれていて、約5%に
前立腺がんは、排尿困難・
尿道がんは比較的まれですが、尿閉による両側の水腎・水尿管症を示すことがあります。
泌尿器科領域の悪性腫瘍の治療は、根治性がある(手術で治癒する)場合は根治術を行います。
腎細胞がんでは根治的
尿路悪性腫瘍の進行がんの場合には、多剤併用の抗がん薬治療を行います。また、
⑥泌尿器科領域以外のがん
胃がんの腹膜
診断は超音波、CT、MRIを用いて行います。
悪性腫瘍が浸潤した場合は、尿管ステント留置または腎瘻造設術を行い、腎後性腎不全の改善を図ります。
⑦腎嚢胞
腎細胞がんと同様に尿管を圧排した場合に、水腎・水尿管症を起こすことがあります。
⑧結核
現在では少なくなっていますが、尿路結核がみられることがあります。長期の炎症の結果、腎杯
⑨外傷によって尿管の損傷を来した場合
この場合も水尿管症を示します。尿管ステント留置、尿管拡張、尿路再建などの処置を行います。
⑩泌尿器科手術により尿路損傷を生じた場合
経尿道的に処置することが多く、尿道拡張、尿管拡張、尿管ステント留置を行います。
消化器や婦人科での手術中に尿管を損傷した場合は、尿管が完全断裂していることもあります。この場合は尿管の
術中に尿管損傷に気がつかない場合、患者さんは術後、腰背部の鈍痛を訴え、腎超音波を行って初めて水腎・水尿管症が判明することがあります。この場合、尿路の近くに尿がもれて
⑪
原因不明の尿管を圧迫する病気で、水腎・水尿管症を呈します、時に
坂本 善郎
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報