河川のはんらんにより,河道の両側に土砂が堆積して形成された帯状の微高地。河川のはんらん時には,多量の土砂を運搬する濁水が通常の河道から周辺に向けて溢流する。洪水流は河道を離れると拡散して水深が浅くなり,流速も弱まる。その結果,土砂の運搬力は急激に衰え,河岸には砂質の堆積物が,さらに遠方にはシルト・粘土質の細粒堆積物が堆積する。このような河川のはんらんのくり返しによって河岸の部分は次第に高さを増し,河道に沿って帯状に連なる自然堤防が形成される。一方,自然堤防の背後の低地では,河岸の高まりのため洪水時にあふれ出た水が元の流路に戻らず,しばしば湛水するようになる。このような微高地背後の排水不良地は後背湿地backmarshとよばれ,砂質堆積物より成る自然堤防に比べて細粒の,シルト・粘土質堆積物によって構成されている。
一般に,大河川のつくる自然堤防は大きく,小河川のものは小さいという傾向をもつが,流域内の盆地の有無,上流域の地質条件などの違いによっても自然堤防の規模にかなりの違いが認められる。日本では数百mから2kmぐらいの幅をもち,数十cmから数mの高さをもつものがほとんどであるが,大陸の大河川などでは,幅が10kmに達するものや,高さが10mを超えるものもある。横断面は,河道側に比べて外側が緩傾斜となる非対称な山型を示すが,幅に対して高さが極度に低いため,いずれの斜面もきわめて緩傾斜である。
比較的広い沖積平野では,山麓部に発達する扇状地と,河口部に発達する三角州とにはさまれた平野中央部において,自然堤防(地)帯とよばれる自然堤防と後背湿地とが顕著に発達する地域がひろがっている。日本では濃尾平野や津軽平野においてその典型的な例を見ることができるほか,石狩平野や関東平野中央部でも自然堤防が良好に発達している。また,扇状地や三角州でも河道に沿う自然堤防状の微高地が認められる。特に,ミシシッピ川三角州のような鳥趾状デルタでは,河口の両側に細長い水中デルタが形成され,三角州の拡大とともにそれらは離水して顕著な自然堤防に成長している。さらに,山間の盆地や谷底平野などでも自然堤防が発達することがある。このようなところでは,洪水時の水位が著しく高くなることがあり,自然堤防も比高の大きなものが形成されやすい。
自然堤防はわずかではあるが周囲に比べて高いため,洪水・はんらん時には水につかることが少なく,水につかっても長期間湛水することがない。また,堆積物が砂質で周囲に比べて高燥であるため,古くから集落,畑,道路などが立地している。これに対して,後背湿地は排水が不良なため,日本では主として水田として利用されてきた。ただ,近年は用排水設備が整備されて自然堤防上にも水田が分布するほか,都市周辺部などでは後背湿地の部分でも宅地化が進行している。
執筆者:海津 正倫
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氾濫(はんらん)原上を流れる川の常水路の両側に自然にできた微高地。洪水時に常水路からあふれた川の水が氾濫原上に広がると、植生の影響と、急に水深が浅くなるために、洪水流の流速が減少して、常水路の両側へ運搬土砂を堆積(たいせき)する。このために、流路沿いに高く、両側に向かって緩傾斜をもつ自然堤防がつくられる。自然堤防が形成されると、氾濫原の一部は相対的に低地となり、後背湿地を生ずる原因となる。
[髙山茂美]
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…堤(つつみ)とも呼ばれ,土でつくった堤防を土堤または土手という。堤防には人工的なもののほか,自然に形成されるものもあり,自然状態にある河川のはんらんによって,上流から運ばれてきた土砂が河岸沿いに堆積し,背後地より若干高くなったところを自然堤防という。
[堤防の種類と発達]
堤防の呼び方には,雁堤(雁行堤)などのように形状に由来するもの,荒川の吉見堤や向島堤のように地名に由来するもの,信玄堤などのように施工者名を冠したものがある。…
※「自然堤防」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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