河川法(読み)カセンホウ

デジタル大辞泉 「河川法」の意味・読み・例文・類語

かせん‐ほう〔‐ハフ〕【河川法】

洪水高潮などの災害発生を防止し、河川の適正な利用流水の正常な機能を維持するため、河川の管理工事・使用制限・費用負担などを定めた法律。昭和40年(1965)4月1日から施行

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精選版 日本国語大辞典 「河川法」の意味・読み・例文・類語

かせん‐ほう‥ハフ【河川法】

  1. 〘 名詞 〙 河川の管理の基本を定めた法律。河川を適正に利用し、流水の機能を正常に保つことを目的とする。現行法は昭和四〇年(一九六五)施行。

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改訂新版 世界大百科事典 「河川法」の意味・わかりやすい解説

河川法 (かせんほう)

河川の管理等に関する基本法。現行法は1964年公布。洪水の防止,灌漑などを目的とする河川の管理は古くから共同体の社会的共同業務の一つとされてきたが,今日でも多くの河川はその社会的公共性に基づき行政によって管理されており,その準拠法が河川法である。日本の近代的河川法の嚆矢(こうし)をなすのは,1896年に制定された河川法(旧河川法)である。旧河川法制の問題点は,河川法の適用される適用河川と河川法の一部が準用される準用河川とを区別し,区間主義的河川管理制度を採用していたこと,河川,流水および河川敷地を私権の目的とすることを認めていなかったこと,河川管理をもっぱら治水という視点から規律していたことなどである。旧法は,かねてより,治水・利水の両面において,その不経済・不適正が指摘されていたが,1960年代の日本経済の飛躍的発展にともない,改正の必要がいっそう痛感されるようになり,64年新法が制定されるに至った。現行河川法は水系一貫主義的河川管理制度を採用し,河川敷地についての私的所有権を承認し,河川管理を利水という視点からも規律している。ただし,注意すべきことは現行法制の下においても,日本に存在するすべての河川が河川法の適用を受け,行政によって管理されているのではないということである。

 河川法の適用を受け,行政によって管理される河川は,河川管理者である行政によって指定されたものである。建設大臣によって指定され,管理される河川を一級河川都道府県知事によって指定され,管理される河川を二級河川という。これらの河川以外の河川で,市町村長が指定するものには,河川法の一部が準用される。これらの河川を準用河川といい,準用河川の管理は市町村長によって行われる。河川は国の公物とされるので,地方自治体の長による河川の管理は,各自治体の長に対する機関委任事務としてなされる。また,ある河川をいかなる等級の河川として扱うかということは,行政の自由裁量に属することとされている。以上の一級河川,二級河川あるいは準用河川としての指定を受けた河川以外の河川を普通河川という。普通河川については地方自治体が河川管理条例を定めて管理を行うことができる。この河川管理条例には,河川管理条例の規定の内容が河川法のそれとどの程度対応しなければならないのかなどの問題がある。また,河川管理条例の定められていない普通河川については,法定外公共用物としての問題がある。なお,河川をめぐる法律関係に民事法がいかなる範囲で適用されるかということについては従来から議論がある。現行河川法の下では,河川敷を一定の場合に時効取得することが認められるなど,民事法の適用されるところがあることは認められている。

 河川法によって予定されている河川管理行政の目的は,洪水等による災害の防止,河川の適正な利用,流水の適正な機能の維持である。その具体的内容としては,河川区域の指定,河川台帳の調整,河川工事,河川管理施設の操作,洪水時等における緊急措置,河川の使用に関する規制,水利調整,ダムに関する特則に基づく管理,河川予定地ならびに河川保全区域の指定およびそこでの行為の規制などがあげられる。また,洪水の予防等の行政が行う治水事業を規律する法律には,河川法のほかに河川管理施設等構造令および治山治水緊急措置法(1960公布),水防法(1949公布)がある(〈治水〉の項参照)。

 産業の発展と人口の都市への集中という現象は,河川の流水の利用を調整し,あるいは,水資源を開発するという利水事業をめぐる行政の責任をいっそう大きなものにしている。河川の流水の利用に対する行政的関与の一形式として,流水の占用の許可がある。これは,水利権を設定するという点で,講学上は〈特許〉と理解されている。この水利権の設定の申請があった場合に,河川管理者は関係河川使用者への通知等の河川法に定める水利調整を行わなければならない。また,異常な渇水時においては,水利権者相互間で渇水調整が行われる。この場合にも,行政は,斡旋または調停という関与の手段を行使することがありうる。また,総合的な水資源の開発は,多目的ダムの建設などによって進められているが,住民の生活再建措置などきわめて多くの問題を内包している。
 →水資源
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「河川法」の意味・わかりやすい解説

河川法
かせんほう

河川について、洪水、高潮等による災害発生の防止、河川の適正な利用および流水の正常な機能の維持のために河川を総合的に管理し、これにより国土の保全と開発に寄与することを目的とする法律。昭和39年法律第167号。旧法(明治29年法律71号)は、洪水の氾濫(はんらん)を防御する堤防工事を基本とする治水政策に対応して、河川の利水よりは治水に重点を置き、全体として不備・不完全なものであった。とくに、日本経済の発展に伴い、水力発電事業や近代的重化学工業の利水事業が盛んになり、農業、林業、漁業などの治水および慣行的灌漑(かんがい)用水利権、流木権などとの利害調整が大きな問題となった。そこで、新しい時代の要請にこたえるため、河川法の全面的改正が数度にわたり試みられたが、約70年を経て、1964年(昭和39)成立・公布され、65年から施行されたのが現行法である。

 現行の河川法は、(1)河川の種類を水系ごとに一級河川、二級河川に指定し、一級河川は国土交通大臣、二級河川は都道府県知事が管理にあたることを原則とし、(2)河川の管理については、河川工事、河川の使用および河川に関する規制、とくに水利調整、ダムの防災などに関する詳細な規定を置き、(3)河川に関する費用については、原則として、一級河川にかかわるものは国、二級河川にかかわるものはその河川の存する都道府県の負担とすること、などについての定めを設けている。なお、これらの河川以外の河川で、市町村長が指定するものには、河川法の一部が準用される。

[宮田三郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「河川法」の意味・わかりやすい解説

河川法
かせんほう

昭和 39年法律 167号。河川について,洪水,高潮などによる災害の発生が防止され,河川が適正に利用され,流水の正常な機能が維持されるように総合的に管理するための法律。河川に関する総則,河川の管理,河川に関する費用,監督,河川審議会などを定める。河川は公共の水流および水面であり公共用物とされ,河川の流水は私権の目的となることができないものとされている。河川は,河川法上の一級河川と二級河川,二級河川の規定が準用される準用河川,それ以外の普通河川に分けられるが,一級河川は原則として国土交通大臣が,二級河川は都道府県知事が,準用河川は市町村長,普通河川は地方公共団体が管理する。

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百科事典マイペディア 「河川法」の意味・わかりやすい解説

河川法【かせんほう】

河川について,治水,利水に関する総合的管理をすることにより国土の保全と開発を図る法律(1964年公布,1965年施行)。治水に重点をおいた旧河川法(1896年)に対し,利水に関する制度と水系主義による広域的管理体制の整備に新法の特色がある。これによって主たる河川の管理は国土交通大臣の管理下におかれるようになったが,近年,地方分権の流れの中で中央政府による規制を緩和すべきとの主張が強まってきている。→河川計画

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世界大百科事典(旧版)内の河川法の言及

【水利権】より

…社会実態的には,河川,溜池,クリーク,渓流等の公共の用に供されている流水を継続的・排他的に使用する権利を指すが,河川法の規定では,同法23条により許可された流水占有の権利(許可水利権)のことをいう。河川法上の水利権としては,許可水利権のほかに慣行水利権がある。…

【水資源】より

…またアメリカ南部のテネシー川流域でのTVAによる河川総合開発事業はあまりにも有名である。 日本では,1957年の〈特定多目的ダム法〉,61年の〈水資源開発促進法〉〈水資源開発公団法〉(水資源開発公団),64年の新河川法などの制定を通じて多目的ダムを中心とする水資源開発が本格化する条件がつくられた。 1950年代後半から70年代前半の石油危機まで続いた高度経済成長は,急速な重化学工業化の過程であると同時に,急速な人口の都市集中の過程でもあった。…

※「河川法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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