国や公共団体によって直接公の目的のために供用される個々の物をいう。公物の観念を有体物に限るか,という問題があるが,実際上公物として問題になるのは,有体物それも土地やその上の施設である。公物は,直接に一般の国民の利用に供される公共用公物(例,道路,河川,公園。ただし,厳密にはそれらを構成する個々の物が公物であるが,通常,道路・河川等を指して公物ということは多い)と,直接には国や公共団体の事務・事業の用に供される公用公物(例,庁舎,国公立の学校・病院)とに大別される。また,公物は,公物としての実体を備える過程の相違により,自然公物(例,河川)と人為公物(例,道路)とに分かれ,また,公物の設置管理の主体が当該公物の所有権を有しているか否かにより,自有公物と他有公物(例,文化財)とに分けられる。他有公物については,その所有者は権利行使を制限される(公物制限)。
行政活動は,国民に対する義務の賦課として行われることもあるが,現代国家においては,社会福祉行政において明瞭に示されるように,国民に対する各種の便益の提供が物的手段を通じて行われることも少なくない。公物の観念またはそれに関する理論は,このような物的手段による行政にかかわるものであるが,従来,その重点は,公物による国民への便益の提供という面よりは,むしろ,公物の追求する公共目的を確保することにおかれてきた。しかし,公物は行政目的達成の手段であり,それと矛盾,衝突する国民の権利利益が制限されることもあるが,国民の生活は公物の存在に依存している面もあり,国民の利用の保障の見地から河川や道路に関する法を見直す必要がある。
公物に関する法制には,河川法,道路法,海岸法などがあるが,一般法は存在しない。国有財産法および地方自治法中の公有財産に関する規定(238条以下),とくに行政財産に関する規定は,基本的には財産管理法の性格を有するものの,国公有財産が公用・公共用に供せられる場合のものであって,国公有の公物に関する一般法に近い役割をもっている。公物の管理と国公有財産の管理は一応は区別されるものであるが,相互に無縁のものではないわけである。公物の公物としての取扱いは,法律や条例に特別の規定があってはじめて確かめられるのであって,このような規定がなければ,私法の適用をうけるなど,私物と同様に取り扱われる。
公物については,私権の成立や行使が制限されることがあり(例,河川法2条2項,道路法4条,国有財産法18条1項),また,公物の(周辺)地域での権利制限が認められることがある(負担制限。例,道路法44条,河川法26,27条,55条1項)。公物の管理は,本来,非権力的な手段で行われるが,法律や条例に基づいて権力的手段(例,公安条例に基づくデモ等の許可制)が用いられることもある。なお,公物の使用が公共の安全・秩序に対する障害を生ずる場合においては,警察権の行使が行われることがある。これは,公物警察作用と呼ばれ,公物管理作用とは区別される。例えば,道路における道路交通法に基づく取締りは公物警察作用であり,道路法に基づく管理は公物管理作用である。
国民による公物の利用は,許可や契約の形式で行われることもあるが,このような行為の介在しない使用(自由使用ないし一般使用。例,道路の通行,公園の散策)や,一般人には認められない特別の使用(特許使用。例,河川区域内におけるダムの建設,道路へのガス管の埋設)もある。このような行為形式のいかんを問わず,利用は均等,公正に認められなければならない。なお,一般使用においては,国民の地位は権利ではなく,反射的利益であると解されているが,国民のこうむる不利益が一定の限度をこえる場合には,裁判的救済の認められる余地がある。
公物をめぐる争いは,その性質上,民事訴訟の形をとるが,公権力の行使に当たる行為が問題となる場合には,行政事件訴訟法に定められた取消訴訟等の抗告訴訟の形式によることになる。また,道路・河川等の設置,管理の瑕疵(かし)による損害については,国家賠償法に特別の規定があり,国や公共団体は,過失がなくとも損害賠償責任を負わなければならない(国家賠償法2条)。
→営造物 →公共施設
執筆者:芝池 義一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
国または地方公共団体等の行政主体により直接、公の目的に供用される個々の有体物をいう。所有権の所在を問わない。その種類としては、直接、一般公衆の共同使用に供される公共用物(道路、河川、公園、海浜など)と、直接には国、公共団体の公用に供される公用物(官公署の建物、国・公立学校の建物など)、自然の状態においてすでに公の用に供しうべき実体を備えるのを通常とする自然公物(河川、海浜など)と、行政主体が人工を加え、かつ意思的にこれを公の用に供することにより初めて公物となる人工公物などの区別がある。
公物は直接、公用または公共用に供されるという目的を達成するために、国有財産法、地方自治法第238条の4、河川法、道路法、海岸法、港湾法、都市公園法など特別な法律の適用を受ける。特殊の規定がなければ私法の適用を受けるのが原則であるが、解釈上争いの生ずることが少なくない。まず、公物は公の目的を達成するため所有権の設定なり移転について制限されることがある。公物が取得時効の対象となるかどうかについては、かつては否定されていたが、それは里道、水路、海岸などが公物性を喪失し、私人が長年占有していた場合に問題となることから、今日では肯定するのが判例である。公物の範囲については特別法で行政処分により決することができるとされていることがあり、公物保全の見地から公物の隣地の利用が制限(河川法54条の定める河川保全区域、海岸法3条の定める海岸保全区域等)されることがある。公物の設置管理に瑕疵(かし)がある場合には、公務員の過失の有無を問わず、公物の設置管理者または費用負担者が賠償責任を負う(国家賠償法2条、3条)。
公物の使用関係には次の三つの種類がある。
(1)公共用物の一般(自由、普通)使用 本来他人の共同利用を妨げない限度において許可を要することなく自由に使用することをいう。道路の通行、公園の散策、海水浴のための海浜の使用、河川における水泳・洗濯などがその例である。また、公用物はもともと官庁の利用に供されるが、従来、国立大学構内の自由通行のように自由使用が認められることがあると説明されてきた。しかし、国立大学も非公務員型に法人化され、そもそも公用物であるのかが明らかでなくなっている。
(2)許可使用 公物の使用が公共の安全と秩序に支障を及ぼすのを防止し、または多数人の同時使用を調整するために、一般には自由な使用を制限し、特定の場合にその制限を解除するもので、公安条例や道路交通法によるデモ行進の許可がその例である。
(3)特許使用 特定人に使用権を設定するもので、道路に電柱を建て、ガス管を埋設し、軌道を敷設し、河川にダムを建設し、官庁内に食堂や理髪店を設置するのがその例である。
[阿部泰隆]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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