2000年(平成12)の地方分権改革以前の観念で、国、他の地方公共団体その他公共団体から都道府県知事、市町村長、各種行政委員会に委任された事務(2000年改正施行前の地方自治法148条・180条の8・180条の9・186条・202条の2)をさす。自治体自身に委任された団体委任事務に対するものであった。
法的には委任した団体(一般には国)の事務であって、自治体の事務ではないので、委任された知事は主務大臣の、市町村長は主務大臣と知事の指揮監督に服した。(同150条)。その監督方法として職務執行命令訴訟制度があった。他方、議会は単に説明を求め意見を述べることができる(同99条)にすぎず、条例も制定できなかった。その例は当時の地方自治法別表第3、第4に掲げられたが、福祉、公害、環境、消費者保護など、全国的性格をもつと同時に地方的性格を併有するものが少なくなかった。これに対し、自治体の権限が弱いことについては地方自治尊重の見地からかねて疑問が出されていた。また、現実には機関委任事務と自治事務の区別はあいまいであるうえ、自治体の現場では、議会も予算を通じて機関委任事務を統制しているので、機関委任事務の自治事務化の現象がみられた。2000年の地方分権改革ではこれらの事情をふまえ、機関委任事務の観念は廃止され、基本的にはその事務を処理する地方公共団体の事務となった。それは自治事務と法定受託事務に分けられるが、いずれにおいても条例制定権が認められ、職務執行命令訴訟制度は廃止された。
[阿部泰隆]
『日本地方自治学会編『機関委任事務と地方自治』(1997・敬文堂)』▽『自治体問題研究所編『地方自治法改正の読みかた』(1999・自治体研究社)』
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…地方公共団体の仕事は多様であるが,その中には国および他の地方公共団体から執行を委任された事務が多数を占めている。これを一般に委任事務というが,講学上それは〈機関委任事務〉と〈団体委任事務〉に分類される。前者は地方公共団体の長その他の機関に執行が委任された事務,後者は団体に執行委任された事務と解釈されている。…
…市町村には上記の固有事務に加え,法令によって首長ないし行政委員会および団体それ自体に,多数の国政事務の執行が委任されている。前者は〈機関委任事務〉,講学上後者は〈団体委任事務〉と呼ばれる(委任事務)。市町村間には原則として権能に違いはない。…
…市町村長の被選挙権は満25歳以上の者が有する。市町村長は当該団体を統轄し代表するものであり,執行機関の長として当該市町村に固有の事務を執行管理するほか,法律,政令によって執行が義務づけられた国政事務(機関委任事務)を執行管理する。市町村長の担任事務は広範であるが,議会の議決を要する事件について議案を提出すること,予算を調整し執行すること,地方税を賦課徴収し,分担金・使用料・手数料を徴収し過料を科すこと,決算を議会の認定に付すこと,会計の監督,財産の取得・管理・処分を行うこと,公の施設の設置管理,証書および公文書の保管,その他事務の執行である(地方自治法149条)。…
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[国と地方の関係]
ところで,以上のように地方自治体の自治権は,憲法,法令によって保障されているが,国との行財政関係に目を転ずるならば,その基盤ははなはだ弱体である。地方自治法によって地方公共団体の事務とされたものと別個に,首長および行政委員会には,個別法令に基づき国の事務が委任されている(機関委任事務。〈委任事務〉の項参照)。…
※「機関委任事務」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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