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河野談話

朝日新聞掲載「キーワード」の解説

河野談話

韓国の元慰安婦らが1991年、日本政府に補償を求めて提訴した。政府は調査を踏まえ、93年8月に宮沢内閣の河野洋平官房長官が公表した。慰安所は「当時の軍当局の要請により設営された」とし、慰安所の設置や管理、慰安婦の移送について「旧日本軍が直接あるいは間接に関与した」と認めた。そのうえで元慰安婦に「心からお詫(わ)びと反省の気持ち」を表明した。

(2014-06-21 朝日新聞 朝刊 1総合)

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百科事典マイペディアの解説

河野談話【こうのだんわ】

韓国の元従軍慰安婦らが1991年,日本政府に保障を求めて日本の裁判所に提訴したことをうけ,日本政府は調査を踏まえ,1993年8月宮沢内閣の河野洋平官房長官(当時)が〈謝罪と反省〉の談話を公表した。河野談話である。談話は,慰安所は〈当時の軍当局の要請により設営された〉とし,慰安所の設置・管理,慰安婦の移送について〈旧日本軍が直接あるいは間接に関与した〉と認め,〈慰安婦の募集については,軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが,その場合も,甘言,強圧による等,本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり,更に官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった〉と,している。そのうえで,〈当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた〉として元従軍慰安婦に〈心からのお詫びと反省の気持ち〉を表明した。河野談話は日本政府の公的な見解であり,韓国はもとより国際的にも政府公式見解と受け止められた。河野談話に続いて,1995年8月村山富市総理大臣が〈戦後50周年の終戦記念日にあたって〉と題する声明を,閣議決定をへたうえで発表(村山談話)。平和友好交流事業と戦後処理問題への対応の推進を期すると述べ,植民地支配と侵略によって諸国民に多大の損害と苦痛を与えたことを再確認し謝罪を表明した。さらに,村山内閣は同年,民間団体や個人から募金を集めて元従軍慰安婦に一時金を払うことを目的とした〈女性のためのアジア平和国民基金〉を発足させた。河野談話と村山談話は,第2次大戦敗戦後の日本国家が達成した〈民主主義,平和主義,国際協調主義〉を踏まえて,日本国が自らの〈歴史認識〉を表明したものとして,国際的にも理解された。以後の歴代内閣は両談話を堅持してきたが,2012年12月,自民党・安倍晋三が第96代内閣総理大臣に選出され,自公連立の第二次安倍晋三内閣が発足したことで事態は一変した。安倍晋三は,戦後レジームからの脱却,日本国憲法の改正を唱え,歴史認識問題でも戦前日本の侵略性を否定する持論の持ち主であり,河野談話,村山談話の見直しについても再三言及していた。2012年の自民党総裁選の際に河野談話を見直す考えを公的に表明。第二次安倍内閣でも,自身のこうした考えに同調する自民党員を閣僚や側近として起用した。こうした動きに韓国は反発を強め,さらに尖閣諸島問題で緊張が続く中国も安倍首相の〈歴史認識〉を強く批判,安倍政権側も閣僚の靖国参拝や首相周辺から歴史認識問題や従軍慰安婦問題で河野談話を否定する発言が続き,安倍と憲法観を共有する橋下徹(日本維新の会・共同代表)の戦時の慰安婦・慰安所を肯定する発言も加わり,日韓・日中関係は完全に冷却状態に陥った。加えて安倍首相は2013年末突如靖国参拝を実行,米国政府に衝撃が走った。米国政府・議会内には,安倍内閣の〈憲法改正〉〈靖国参拝〉〈河野・村山談話見直し〉という歴史修正主義的な姿勢が韓国から強い反発を受け,中国との緊張を高め,東アジアの国際的安定を損ねていることを懸念する見方が存在する。安倍のこうした姿勢によって,結果として日米同盟・韓米同盟を基軸とするアメリカのアジア戦略が揺らぎかねないという警戒感も強い。国際社会では従軍慰安婦問題を女性の普遍的な人権問題ととらえる見方が完全に定着しており,河野談話の〈見直し〉などはありえない,とされている。しかし安倍内閣は河野談話の内容の信憑性と談話の成立経過について〈検証する〉チームを政府内に設置することとした。これに対して米国政府は非公式に〈強い懸念〉を総理官邸に伝え〈検証は望ましくない〉と表明。韓国・中国も一斉に〈検証〉を批判した。米国は2014年4月のオバマ大統領の訪日・訪韓を機に日韓の首脳同士が就任以来,初めて会談する機運を作りだそうと働きかけ,3月オランダのハーグで米日韓三国首脳会談を実現させた。米国の仲介でようやく朴槿恵韓国大統領が安倍首相と会話する機会を持った。こうしたなか,安倍首相は参議院予算委員会で〈安倍内閣で河野談話を見直すことはしない〉〈歴史に対して我々は謙虚でなければならない〉と明言。〈慰安婦問題については,筆舌に尽くしがたいつらい思いをされた方々のことを思い,非常に心が痛む〉と発言した。安倍首相は〈歴史問題は政治,外交問題化されるべきものではない〉と付言したが,外交としてはこの問題で完敗とも言える結果となっている。4月オバマ大統領は日本に次いで訪問した韓国で従軍慰安婦問題に言及〈戦時中とはいえはなはだしい人権侵害〉と強く非難,この問題について日本が解決に踏み出すことを促した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

河野談話
こうのだんわ

1993年8月に宮沢政権の河野洋平内閣官房長官が発表した,第2次世界大戦中の従軍慰安婦問題をめぐる政府の調査結果に関する談話。正式名称「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」。慰安所は広範な地域に長期にわたって設けられ,多くの慰安婦がいたとし,設置や管理には旧日本軍が直接,間接に関与していたことを認めた。慰安婦の募集は軍の要請を受けた業者が中心となって行なわれ,本人の意思に反して集められたり,官憲が直接荷担したこともあったとした。多くの女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題だと指摘し,癒やしがたい傷を負ったすべての人たちにおわびと反省の気持ちを表明した。歴代の内閣が河野談話を踏襲することを表明しており,2012年に第2次安倍内閣を発足させた安倍晋三内閣総理大臣も当初同様の考えを示した。が,日韓関係の悪化を背景に信憑性を問う声が強まったことをうけ,安倍政権は作成された経緯を検証する方針を表明した。2014年6月,有識者による検証結果が国会に報告され,慰安婦募集の強制性や旧日本軍の関与を示す表現をめぐって日韓が綿密な調整を重ねていたことなどが明らかとなった。また菅義偉内閣官房長官は,評価は専門家にゆだねるとして詳しい論評を避け,河野談話を見直さない方針を表明した。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

河野談話
こうのだんわ

第二次世界大戦中の従軍慰安婦について、旧日本軍の関与や強制的であったことを日本政府が公式に認め、謝罪した官房長官河野洋平(当時)の談話。正式名称は「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」。1991年(平成3)末、韓国の元従軍慰安婦が日本政府に補償を求め提訴したのを受け、当時の宮沢喜一(みやざわきいち)内閣は慰安婦関係の調査を実施した。この調査結果を踏まえ、1993年8月4日、河野官房長官が記者会見で発表した。朝鮮半島などでの慰安婦の募集や移送、慰安所の設置やその管理に、旧日本軍が直接・間接に関与したことを認め、「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」と明記し、強制的であったことを公式に認めた。また「数多(あまた)の苦痛を経験され、心身にわたり癒(いや)しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫(わ)びと反省の気持ちを申し上げる」との表現で謝罪した。河野談話以降、日本の歴代内閣は基本的にこれを踏襲・継承している。1994年、村山富市(むらやまとみいち)内閣は従軍慰安婦について謝罪を表明し、1995年に「女性のためのアジア平和国民基金」(略称「アジア女性基金」)を発足させて、元従軍慰安婦への償い事業を行った(事業終了に伴い2007年(平成19)3月解散)。
 なお宮沢内閣の調査では、旧日本軍の強制連行を証拠だてる書類・資料が発見されなかったため、強制的であったかどうかがその後の争点となっている。談話発表の際、河野官房長官は「強制連行を行っていても、命令書や報告書は作成されはしないであろう。募集・移送・管理等の過程全体をみて、自由行動の制限があった」と強制的とした根拠を説明した。一方、2007年、第一次安倍晋三(あべしんぞう)内閣は「政府が発見した資料の中には、軍や官憲による強制連行を直接示すような記述はみあたらなかった」との政府答弁書を閣議決定している。安倍晋三は2012年の自民党総裁選で河野談話の見直しに意欲を示したが、内閣総理大臣についた2013年1月には従軍慰安婦問題を「政治、外交問題化させるべきでない。総理である私が申し上げることは差し控える」と河野談話の見直しに踏み込まない意向を示した。
 河野談話発表後、韓国政府は「補償は不要」との姿勢だった。しかし元従軍慰安婦の賠償訴訟が相次ぎ、2007年に韓国の国会議員が日本政府に賠償を要求し、2012年には当時の大統領李明博や韓国国会が賠償措置など慰安婦問題の解決を要求した。[編集部]

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