村山談話(読み)ムラヤマダンワ

デジタル大辞泉 「村山談話」の意味・読み・例文・類語

むらやま‐だんわ【村山談話】

平成7年(1995)8月15日に当時の首相村山富市が発表した「戦後50周年の終戦記念日にあたって」と題された談話日本第二次大戦中にアジア諸国で侵略や植民地支配を行ったことを認め、公式謝罪したもの。日本の公式見解として歴代内閣に引き継がれている。

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百科事典マイペディア 「村山談話」の意味・わかりやすい解説

村山談話【むらやまだんわ】

1995年8月村山富市総理大臣が〈戦後50周年の終戦記念日にあたって〉と題する声明を,閣議決定をへたうえで発表した。いわゆる村山談話である。談話は今日の日本の平和と繁栄を築き上げた国民の努力に敬意を表し諸国民の支援と協力に感謝し,さらに,平和友好交流事業と戦後処理問題への対応の推進を期すると述べ,植民地支配と侵略によって諸国民に多大の損害と苦痛を与えたことを再確認し謝罪を表明する,とした。とくに韓国や中国への謝罪問題に対しては,〈植民地支配と侵略によって,多くの国々,とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は,未来に誤ち無からしめんとするが故に,疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め,ここにあらためて痛切な反省の意を表し,心からのお詫びの気持ちを表明いたします〉と述べている。さらに,村山富市内閣は同年,民間団体や個人から募金を集めて元従軍慰安婦に一時金を払うことを目的とした〈女性のためのアジア平和国民基金〉を発足させた。村山談話は1993年8月の〈河野談話〉とともに,戦後日本が達成した〈民主主義,平和主義,国際協調主義〉と安定した経済・社会を踏まえて,日本国が自ら過去の〈植民地支配と侵略〉について〈反省と謝罪〉を公的に表明したものとして,国際的にも評価され,以後の歴代内閣はこの談話を蹈襲(とうしゅう)してきた。しかし自民党安倍晋三が第96代内閣総理大臣に選出され,自公連立の安倍晋三内閣が発足したことで事態が一変した。安倍晋三は,戦後レジームからの脱却,日本国憲法の改正を唱え,歴史認識問題でも戦前日本の侵略性を否定する持論の持ち主であり,〈河野談話〉〈村山談話〉の見直しについても再三言及していた。2012年の自民党総裁選の際に〈河野談話〉を見直す考えを公的に表明。第二次安倍内閣でも,自身のこうした考えに同調する自民党員を閣僚や側近として起用,高市早苗自民党政調会長などからも村山談話を否定する発言が出された。こうした動きに韓国は反発を強め,さらに尖閣諸島問題で緊張が続く中国も安倍首相の〈歴史認識〉を強く批判。安倍政権側も安倍首相自らが〈村山談話をそのまま継承しているわけではない〉と発言。さらに閣僚の靖国神社参拝や,首相周辺から歴史認識問題や,従軍慰安婦問題などで河野談話を否定する発言が続いた。安倍首相と憲法観を共有する橋下徹(日本維新の会・共同代表)の戦時慰安婦・慰安所を肯定する発言も加わり,日韓・日中関係は完全に冷却状態に陥った。2013年末安倍首相は突如靖国神社参拝を実行,さらに安倍内閣として〈河野談話の検証〉を進めると表明。米国はこうした安倍政権の姿勢と日韓・日中関係の緊張が太平洋・アジア外交を基軸とする米国の国益に悪影響をもたらすとして,議会,メディアに懸念が広がり米国政府も危機感を募らせた。米・オバマ政権は安倍政権の発足当初から,河野談話の見直しや首相の靖国参拝に踏み切らないよう求めてきた。しかし,2014年4月のオバマ大統領の日本・韓国訪問に先立ち,米国国務省は3月に安倍政権が表明した〈河野談話の検証〉に対して,〈村山談話と河野談話は,日本が近隣国との関係を改善するうえで重要な出来事だった〉と改めて表明した。〈日本の指導者が近隣国とより強固な関係を築くことに資する形で過去の問題に取り組むことを促している〉と安倍政権を強く牽制した。こうした動きのなか,安倍首相はそれまでの姿勢を転換し,〈村山談話〉に続いて〈河野談話〉の継承を公的に表明することとなった。しかし安倍首相は戦後70年の2015年に新たな首相談話を出すとしており,再び村山談話をどこまで継承するのか,アジア諸国の注目が集まっている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「村山談話」の意味・わかりやすい解説

村山談話
むらやまだんわ

日本の過去の植民地支配と侵略を日本政府が公式に認め、「反省とお詫(わ)び」を表明した首相村山富市(むらやまとみいち)(当時)による談話。村山内閣が1995年(平成7)8月15日に閣議決定し、村山自身が記者会見で発表した。正式名称は「村山内閣総理大臣談話『戦後50周年の終戦記念日にあたって』」。その後の歴代内閣は村山談話を引き継ぐ姿勢を示しており、日本の戦争責任と平和への決意を明確にした政府公式見解とされている。

 村山談話は前文に続いて、「平和と繁栄を築いた日本国民への敬意と諸外国への感謝」「平和友好交流事業の展開と戦後処理問題への対応」「植民地支配と侵略への謝罪」「核兵器廃絶など国際的軍縮の推進」の四つの部分からなっている。とくに第3部分では「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」との表現で公式に植民地支配と侵略を認め、「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ち」を表明した。談話発表の記者会見で村山首相は「第二次世界大戦にかかわる戦争被害者からの日本政府への賠償請求や財産請求の問題は法的に解決済み」との考えを示した。村山談話は日本政府の歴史認識の公式見解とされているが、植民地支配、侵略、賠償請求などをめぐっては論争になることが多い。

 政府首脳による談話には、村山談話のほか、戦後60年の節目(2005)に首相小泉純一郎が植民地支配と侵略について改めて「反省とお詫び」を表明した「小泉談話」、1993年に官房長官河野洋平(こうのようへい)(1937― )が従軍慰安婦への旧日本軍の関与や強制性を公式に認めて謝罪した「河野談話」などがある。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「村山談話」の意味・わかりやすい解説

村山談話
むらやまだんわ

1995年8月,村山富市内閣総理大臣が閣議決定(→閣議),発表した第2次世界大戦に関する談話。正式名称「村山内閣総理大臣談話『戦後50周年の終戦記念日にあたって』」。第2次世界大戦について,日本は国策を誤って戦争の道に進んで国民を存亡の危機に陥らせ,植民地支配と侵略によって多くの国々,とりわけアジア諸国の人々に多くの損害と苦痛を与えたとした。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め,あらためて痛切な反省を表し,心からのおわびの気持ちを表明した。関係国からは一定の評価を受け,歴代の政権も踏襲した。戦後 60年の 2005年に小泉純一郎首相が閣議決定し,発表した談話(小泉談話)でも,植民地支配と侵略によってアジア諸国の人々などに多大の損害と苦痛を与えたことや,痛切な反省やおわびの気持ちを表明するといった表現が取り入れられた。安倍晋三首相が戦後 70年の 2015年に閣議決定し,表明した談話(安倍談話)では,村山談話の表現は使われなかったが,安倍首相は談話発表後の会見のなかで,村山談話のおわびの気持ちを引き継いでゆく考えを示した。

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