【談話産出の認知的基盤】 内田(1996)に基づき,談話産出を支える認知機能を概括すると,図6のようになる。生後10ヵ月ころに,象徴機能が成立してイメージが誕生すると,ヒトは生物的存在からイメージを意識内容にもつことのできる人間的な存在になる。意識の時間軸は現在から過去へと広がることになる。生後10ヵ月ころに起こる認知発達の質的変化は,第1次認知革命the first cognitive revolutionとよべるほど劇的な変化である。他人との社会的やりとりを通して,自己自身の意識化が始まり,語彙や文法,談話文法が獲得される。やがて,5歳後半ころに第2次認知革命the second cognitive revolutionとよべるような認知発達の質的転換期を迎える。プラン能力,メタ認知能力meta-cognitionや可逆的操作が連携協働して語りを支えるようになる(内田,2007)。これらの変化は,同時に扱える情報の単位が増え,認知的処理資源cognitive resourceと短期記憶範囲digit spanが3単位から4単位へ拡大するのと軌を一にしている。
【日本語談話の特徴】 幼児期~児童期の日米の子どもに物語を語らせると,語りの構造は日米で異なっている。日本人は「そして」「それから」という接続形式を用いて時系列and-then reasoningで説明し,最後に教訓などを付け加える。一方,英語母語話者は「なぜかというと~だから」という接続形式を用いて出来事の起こったわけを因果律why-so because reasoning(結論先行型)で説明することが多い(内田,1999)。しかも,アメリカでは小学校1年から言語技術language artsで,因果律のパラグラフ構成法の指導に力を入れているため,討論・交渉・ディベートなどに向く表現形式が磨かれていく。