改訂新版 世界大百科事典 「泉貨紙」の意味・わかりやすい解説
泉貨紙 (せんかし)
愛媛県西予市の旧野村町に伝承されている,2枚の生紙を合わせた厚手で強靱な楮紙(こうぞがみ)をいう。泉貨紙を初めてつくったと伝えられる兵頭太郎左衛門(?-1597)は,かつて伊予の南部を支配していた西園寺公広に仕えていたが,西園寺氏滅亡後は出家して泉貨と名のり,産業振興に尽力して,独特の楮紙を発明したという。表記は仙花・仙貨・仙過・千花などいろいろあるが,安楽寺に残る墓碑には〈泉貨居士〉とある。宇和島藩は紙を取り扱う役所を泉貨方と半紙方に分けて,泉貨紙の奨励に努めた結果,生産が盛んになり,本場の宇和島藩以外に吉田藩や大洲藩でもすかれて伊予泉貨としてまとめられるばかりでなく,土佐・阿波・洲本・三次(備後)・吉野などでも泉貨紙がすかれるようになった。泉貨紙の製法の特色は,粗いひごの簀(す)(昔は萱(かや)だったので〈しの簀〉というが,現在は竹ひご)と細かいひごの簀(ひご簀という)の2枚を用意し,それぞれですいた後,2枚の湿紙を1枚に重ね合わせる点にある。現在は一つの桁(けた)に2種の簀をのせ,同時にすいて,1枚に合わせる。同じ紙料液で同時にすいても,細かい簀に微細な繊維がのって薄紙となり,粗い簀には長い繊維がのって厚紙となる。簀の目の違いから,厚薄の凹凸も微妙に違い,また,すき終りの繊維の立っている面どうしが合わさるので密着する。つまり二つの相反した性質の紙を1枚に密着させることにより補強しあい,単に2枚の紙を合わせたものよりはるかに強靱となる。現在は,西陣などで反物を運ぶ籠にはる渋紙原紙のほか,出版用紙・経本用紙・型紙用紙・台帳用紙などに用いられている。泉貨紙は記録作成等の措置を講ずべき無形文化財に選択されている。
なお印刷用紙に使われる紙で泉貨紙と呼ばれているものは,木材パルプを主原料とした機械ずきの下級品であるが,生産量は年々減少している。
執筆者:柳橋 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報