経済的資力に乏しく、裁判その他の法律上の保護を受けられない者に対する公的援助制度。日本国憲法第32条は「裁判を受ける権利」を規定しており、これを公的に援助する国家的制度として、訴訟上の救助(民事訴訟法82条以下)、刑事訴訟における国選弁護人の制度(憲法37条3項、刑事訴訟法36条以下)、総合法律支援法(平成16年法律第74号)による民事法律扶助がある。
1952年(昭和27)に設立された財団法人法律扶助協会が、弁護士費用等の立替えという形で民事法律扶助を、さらに、少年保護事件付添援助(1973年度から開始、以下同じ)、難民法律援助(1983)、中国残留孤児国籍取得支援(1986)、刑事被疑者弁護援助事業(1990)等を行ってきた。1989年度(平成1)からは、国庫補助金も増額され、法律扶助は「裁判を受ける権利」を実質的に保障するものとして、格段の充実が検討されてきた。その結果、2000年に民事に関して民事法律扶助法(平成12年法律第55号)が制定された(同年10月施行)。同法は、法律扶助に対する国の責務を規定し、国庫補助が大幅に増加した。この後、2004年に総合法律支援法(平成16年法律第74号)が制定され(民事法律扶助法は廃止)、同法により独立行政法人・日本司法支援センター(愛称は法テラス)が設置された(法テラスは、2006年10月発足)。
総合法律支援法は、裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にするとともに弁護士等の法律専門職者のサービスをより身近に受けられるようにするための総合的な支援(総合法律支援)の実施および体制の整備の基本となる事項を定めるとともに、その中核となる日本司法支援センターの組織及び運営について定めている。
法テラスの主要業務は、(1)法・司法に関する情報提供、(2)民事法律扶助、(3)国選弁護人の選任体制の確保、(4)司法過疎対策、(5)犯罪被害者支援、(6)国・弁護士会・ADR(裁判外紛争解決手続)機関等の連携の確保・強化であり、民事法律扶助業務が法律扶助協会から、日本司法支援センターに移管された。また、「国の責務」「地方公共団体の責務」「日本弁護士連合会等の責務」が定められた。
資力のない国民に対する民事法律扶助としては、民事事件での弁護士費用等民事裁判手続の準備および追行のために必要な費用の立替え、民事裁判等の書類作成費用等の立替え、無料法律相談等があり、とくに、相談担当弁護士の制度が設けられたことが重要である。この結果、法テラスが「全国どこでも法律相談」「司法過疎地での法律相談」「外国人の相談」等をも可能にし、さらに「司法書士総合相談センター」も、全国に設置されるに至った。
[本間義信]
『法律扶助協会編・刊『法律扶助の歴史と展望』(1982)』▽『法律扶助協会編・刊『リーガルエイドの基本問題』(1992)』▽『法務大臣官房司法法制調査部編『各国の法律扶助制度』(1996・法曹会)』▽『法律扶助協会編、宮澤節生監修『アジアの法律扶助 公益的弁護士活動と臨床的法学教育と共に』(2001・現代人文社、大学図書発売)』▽『法律扶助協会編・刊『日本の法律扶助 50年の歴史と課題』(2002)』▽『古口章著『司法制度改革概説5 総合法律支援法/法曹養成関連法』(2005・商事法務)』▽『法律扶助協会編・刊『市民と司法――総合法律支援の意義と課題』(2007・エディックス発売)』
無資力(貧困)のため法律上の保護を受けられない者に対する国家的・社会的援助をいう。憲法は〈何人も,裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない〉ことを保障するが(32条,裁判を受ける権利),裁判を受けるためには,かなりの経費,労力,時間がかかるから,貧困で経費が出せない者,勤労者で出廷する余暇のない者は実際上裁判を受ける権利を奪われてしまう。そこで無資力者でも裁判をはじめとする法律上の保護を受けられるように公的に援助する必要があり,これが法律扶助である。
現在,法律で用意されているものとしては,刑事事件における国選弁護人の制度と民事事件における〈訴訟上の救助〉の制度がある。国選弁護人とは,刑事被告人が貧困その他の理由によって自分で弁護人を選任することができない場合に,裁判所が被告人の請求により国費をもって選任する弁護士である(日本国憲法37条3項,刑事訴訟法36条,刑事訴訟規則29条)。〈訴訟上の救助〉とは,民事訴訟で勝訴の見込みはあるが,訴訟費用を支払う資力のない者に対して,裁判所に納めるべき訴訟費用の支払を一時猶予するものである(民事訴訟法82条,83条)。しかし,これは弁護士に支払うべき手数料,謝金や訴訟以前の段階での法律上の保護を受けるための費用をカバーするものではなく,より広い法律扶助が必要である。
法律扶助の歴史は,アメリカなどの先進諸国では19世紀中葉までさかのぼるが,日本では大正時代に穂積重遠,末弘厳太郎が東大セツルメントの一事業として法律相談部を創設したのを嚆矢(こうし)として宗教団体,新聞社,大学などが無料法律相談を行うようになったことに始まる。今日の日本の法律扶助は,弁護士会,地方公共団体,新聞社,大学などによる無料法律相談や特定の訴訟事件への援助もあるが,最も組織的本格的な活動は財団法人法律扶助協会(1952年設立,主務官庁は法務省)のそれである。その事業の中心は,訴訟費用,弁護士の手数料,謝金,保全処分の保証金等の立替えである。扶助の要件は,申込者が資力に乏しい者であること,勝訴の見込みがあること,法律扶助の趣旨に適すること,である。扶助を希望する者は,資力を証する書面,住民票を添付して,法律扶助協会の支部(各地方裁判所所在地の弁護士会にその窓口がある)に申し込む。審査の結果,扶助が認められると,立替費用の種類,額,限度等が決定される。扶助が決定された事件については,支部所在地の弁護士会が弁護士を推薦し,法律扶助協会,申込者,弁護士の3者で訴訟委任に関する契約を結ぶ。事件が終結すると,立替金の償還の方法が決定される。3年を経過してなお償還が困難と認められる者については,償還が免除されることがある。法律扶助協会の年間の扶助決定件数は1991年度で4896件である。これは,先進諸外国に比べて不十分といわれている。また,近年協会の資金不足が問題となっている。
執筆者:青山 善充
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(土井真一 京都大学大学院教授 / 2007年)
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