定期船海運において、定期船業者が運賃協定などを結び、お互いの競争を抑制し、外部からの参入を制約して市場を独占し、自らの利益を最大限に図ろうとするもの。運賃同盟ともいう。早期に成立した国際カルテルである。船舶が帆船から汽船に転換し、またスエズ運河の開通(1869)などもあり、定期運航が行われるようになると、競争が激化した。1875年に世界最初の海運同盟であるカルカッタ同盟が結成され、それ以後世界の隅々に定期航路が開設されるとともに海運同盟は次々と生まれた。
海運同盟は、内部規制として運賃協定、配船数の協定、積取比率(同盟各社の輸送シェア)の協定、運賃プール計算を実施し、また対外規制手段として、
(1)荷主が同盟船を利用し続ければ運賃の一部を払い戻しする運賃延戻し制、
(2)同盟船に一手船積みする契約をした荷主に運賃を割り引く契約運賃制(二重運賃制ともいう)、
(3)同盟航路に割り込んできた盟外船を低率運賃で排除する闘争船の配船、
などを行っている。海運同盟には、ヨーロッパを基点とし、新規参入を著しく制限しているクローズド・コンファレンスclosed conference(閉鎖同盟)と、アメリカを基点とし、アメリカの独占禁止法の関係から新規参入を原則として認め、さらに運賃延戻し制や闘争船を実施できないオープン・コンファレンスopen conference(開放同盟)とがある。後者では同盟船の脱退や盟外船の割り込みが相次ぎ、賃率表が維持できない状況がおこる。
1960年代中ごろより、先進国間の定期船はほぼ完全にコンテナ船化し、シーランド社などのコングロマリット(複合企業)が割り込んできたため競争が再開され、世界の定期船海運は大幅に再編成された。コンテナ船輸送には巨額の設備投資が必要となるため、伝統的で主要な定期船会社は船舶や施設を共同利用するスペース・チャーター方式(とくに日本)や、企業連合でそれらを共同で所有、運航、利用するコンソーシアムの結成(おもにヨーロッパ)で対抗し、その独占的地位を維持した。しかし、コンテナ船は海陸一貫輸送体制の構成部分にすぎず、海運同盟の規制力は弱まらざるをえなかった。
第二次世界大戦後、開発途上国は「自国貨自国船主義」を掲げて自国海運を育成してきたが、1974年国連貿易開発会議(UNCTAD(アンクタッド))において、「定期船同盟憲章条約」を採択させ、途上国船の積取比率を留保した。また、台湾、中国、韓国、香港(ホンコン)、シンガポールなどの海運会社は、世界の主要な定期航路にコンテナ船を低運賃で盟外配船するようになった。
1984年のアメリカ海運法の制定(規制緩和政策)により、1980年代は海運同盟の運賃協定の弱体化が図られ、世界最大のアメリカ航路をめぐる価格競争と参入競争が激化した。それらの結果、従来の海運同盟は統廃合されて、スーパー・コンファレンスとよばれる新しい海運同盟が結成され、また同盟船社と一部の盟外船社が協調する定期航路安定化協定が締結された。
1990年代、海陸一貫輸送サービスのグローバル化が求められるようになったが、それは従来からの個別の船社による輸送サービスでは対応できるものではなくなり、コンテナ船社は巨大コンテナ船の運航と、複数航路のネットワーク化、そして内陸輸送の整備が求められた。それに対応できたのは、メガ・キャリアーとよばれる、世界で20社ほどのコンテナ船社であった。
1990年代中ごろから、メガ・キャリアーは一方では輸送サービスの最適化のため、他方では利益確保のために、グローバル・アライアンスとよばれるコンソーシアムを結成した。それは、伝統的な海運同盟とは異なり、異なる地域や国の、しかも盟外船社を含む、数社のメガ・キャリアーが業務提携したものであった。それにより、特定の航路を超えた、いくつかのグローバル・アライアンスが組織されることとなった。
アメリカは、1998年改正海運法によって、個別の船社と荷主との間で非公開の個別輸送契約を締結することを容認したものの、海運同盟など船社間協定への反トラスト法からの適用除外は維持した。EUは、2008年をもって海運同盟のEU競争法からの適用除外を廃止した。コンソーシアムについては、EU競争法から適用除外されていたが、見直し作業が行われている。
このように、伝統的な海運同盟は解体を余儀なくされているが、世界の伝統的な大手海運会社は業務協定や業務提携をてこにして、グローバルな海上輸送サービスを提供することにおいて、その伝統的な同盟機能の維持を図っている。
[篠原陽一]
『宮本清四郎著『海運同盟制度論』(1978・海文堂出版)』
定期船航路における海運企業間のカルテル。定期航路の往航または復航別に結成される。定期船市場は,比較的企業規模の大きい少数の海運企業によって輸送サービスが提供される独立した供給寡占市場形態をとる各航路によって形成され,しかも社会的・商業的理由から赤字運航による欠損の累積を配船変更や係船などの臨機応変な手段によって回避できない非弾力的な市場である。したがって,輸送需要が停滞ないし減少して船腹過剰事態になると,少数でしかも力量が比較的接近している参加企業間の競争は,往々にして相互に手痛い打撃を与え,共倒れの危険すら生ずる破滅的な運賃戦争へ導かれる。このような過酷な競争は互いに得るところよりも失うところが大きいので,破滅的な競争にいたらない前に参加企業の間で協調体制を確立して,相互の過度な競争を排除しようとするカルテルが結成される。
海運同盟は,同盟内部の加盟船社相互の競争を抑制するとともに,同盟外部(盟外船主=アウトサイダー)からの競争をも阻止することを目的として,非価格競争を内部に秘めて緩く組織化された自主規制団体である。別に,定期船同盟あるいは運賃同盟とも呼ばれる。国際航路では1875年8月にイギリス~インド航路に結成されたカルカッタ同盟が世界最初のものといわれているが,その後定期船市場の発達とともに世界のあらゆる定期航路に広まっている。同盟内部の競争を抑制する方法には,加盟船社間に取り決められる運賃協定,配船協定,プール協定等がある。このうち,運賃協定は海運同盟にとって基本的なものであり,すべての同盟に共通して存在しているが,配船協定とプール協定は個々の同盟環境の必要に応じて採用されている。一方,盟外船からの競争を阻止する方法には,二重運賃制(契約運賃制),忠実報奨制,運賃延戻し制等の荷主拘束手段と,競争抑圧船(闘争船)という盟外船対抗手段とがある。
しかし,すべての海運同盟がこのような各種の盟外船対策を自由に講じうる立場にあるわけではない。すなわち,公正な競争と無差別を重んじ,独占禁止法を厳しく運営しているアメリカは,1961年改正の〈海運法Shipping Act〉で二重運賃制を条件つきで認めているにすぎず,他の盟外船対策をすべて禁じている。また,同盟加入に対して制限を設けることも許していない。この結果,アメリカ関係航路の同盟は,効果的な盟外船対策を採用できないため盟外船の進出から大きな圧迫を受けていると同時に,加盟船社の数を多くして同盟内部の船腹過剰傾向による過当競争をたえず招来している。このように,自主規制団体としての海運同盟の行動が著しく制限され,カルテルの効果を十分に発揮できない同盟を,一般にオープン・コンファレンス(開放的同盟)と呼んでいる。これに対して,このようなアメリカの同盟規制の及ばないその他航路の同盟,いいかえれば上記の荷主拘束手段や盟外船対抗手段を航路関係国から制限されることなく行使することができ,また加盟船社のマーケット・シェアの維持と拡大の見地から新規の同盟加入に厳しい制限を設けることができ,同盟結成の目的を効果的に追求できる同盟を,クローズド・コンファレンス(閉鎖的同盟)と呼んでいる。
→海運業
執筆者:織田 政夫
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…とくにドイツのNDL,HAPAG両社は1880年代ドイツおよび南欧,東欧から北米,南米への移民の大量輸送によって急成長した。 主要定期航路における海運競争は,他産業に先駆けてカルテル組織すなわち海運同盟shipping conferenceを各航路に生み出した。運賃率や航海数の協定,運賃共同計算などがそれであり,1875年の最初の海運同盟〈欧州・カルカッタ・コンファレンス〉ではすでに運賃延払制が採用され,1904年までに中国同盟,オーストラリア同盟,リバー・プレート(ラ・プラタ)同盟,南米西岸同盟などが相ついで結成された。…
…とくにドイツのNDL,HAPAG両社は1880年代ドイツおよび南欧,東欧から北米,南米への移民の大量輸送によって急成長した。 主要定期航路における海運競争は,他産業に先駆けてカルテル組織すなわち海運同盟shipping conferenceを各航路に生み出した。運賃率や航海数の協定,運賃共同計算などがそれであり,1875年の最初の海運同盟〈欧州・カルカッタ・コンファレンス〉ではすでに運賃延払制が採用され,1904年までに中国同盟,オーストラリア同盟,リバー・プレート(ラ・プラタ)同盟,南米西岸同盟などが相ついで結成された。…
※「海運同盟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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