消防自動車(読み)ショウボウジドウシャ

デジタル大辞泉 「消防自動車」の意味・読み・例文・類語

しょうぼう‐じどうしゃ〔セウバウ‐〕【消防自動車】

消火・人命救助などに必要な機材や装置のある自動車の総称。消火用ポンプホース・はしご・投光器などを装備したポンプ自動車のほか、化学・排煙・照明・無線・救援自動車その他がある。消防車

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精選版 日本国語大辞典 「消防自動車」の意味・読み・例文・類語

しょうぼう‐じどうしゃ セウバウ‥【消防自動車】

〘名〙 消防活動を行なうための自動車の総称。消火、延焼防止、人命救助、避難などの作業を行なうための各種のポンプ車、はしご車、空中作業車、排煙車、照明車、高発泡車、化学車、無線車など。消防車。
百鬼園随筆(1933)〈内田百〉飛行場漫録「消防自動車の鐘とラッパ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「消防自動車」の意味・わかりやすい解説

消防自動車
しょうぼうじどうしゃ

火災の際、消火、救助、その他の消防活動を行う自動車で、消防装備の中心となるもの。欧米では、1829年ロンドンのジョージ・ブライスウェートとジョン・エリクソンによって蒸気消防ポンプが初めて製作された。これは、10馬力で水を約30メートルの高さまで放水でき、従来の手押しポンプに比べて数倍の威力をもつものであったが、馬引きであった。1841年になるとニューヨークで火災保険会社の要請を受け、イギリス人ボウルラプセイ・ホッジが自力で走る蒸気消防ポンプ車を製作した。これは一見蒸気機関車のようなかっこうで、火災現場に到着すると、後端をあげ、後輪ははずみ車としての役目を果たすことになっていた。一時は、このようなポンプ車の使用により、消防手の仕事がなくなることをおそれた消防関係者に反対されて、使用中止になったこともあったが、その後、蒸気消防ポンプ車の威力が認められて普及するに至った。1862年には、ロンドン消防隊蒸気自動車を改良した時速29キロメートルの蒸気消防自動車を使用、1902年には、これまでの馬引き蒸気ポンプを蒸気消防自動車に改良した。しかし、急坂を登れないことと、始動に時間がかかるため、1906年ふたたび馬引きとなってしまった。消防自動車が広く実用化されたのはガソリン自動車ができてからで、最初はガソリン自動車が蒸気ポンプも牽引(けんいん)する型であったのが、1908年、ガソリン機関と消防ポンプを結合した消防自動車が初めて使用されるようになった。

[魚谷増男]

 日本では、1914年(大正3)横浜(イギリス製)、名古屋(ドイツ製)が消防ポンプ自動車を購入、常備配置したのが初めで、しだいに蒸気ポンプ(1870年イギリスから輸入)から自動車に切り替えられ、1915年には国産化に成功、1920年には警視庁に消防車25台、はしご車5台が配備された。その後昭和時代に入り全国に普及、第二次世界大戦後は、自動車産業の急激な発展とともに、現在は各種車両がさまざまな用途に応じて活躍している。おもなものは次のとおりである。

〔1〕ポンプ車
(1)消防ポンプ自動車 消防車両のなかでもっとも代表的なもので、高出力の主ポンプを備え、消火用の放水を行うとともに、救出、救助活動や障害物破壊用などの消防用機材を積載しており、一般火災に多く使われる。

(2)水槽付き消防ポンプ自動車 消防水利の整備が遅れた地域などにおいて一刻も早く初期消火・救助活動が行えるよう、消防ポンプ自動車に水槽を装備したもの。火災現場の近くに停車して、消火・救助活動を行う。

(3)小型動力ポンプ付き積載車 小型動力ポンプ、吸管、ホースなど消火器具を積載し搬送する四輪自動車。

(4)屈折放水塔車 油圧シリンダーにより起伏する2節または3節のブーム(主柱)を取り付け、先端の放水銃から放水消火を行うもの。

〔2〕はしご車
(1)はしご車 高所での消防活動を容易にするために製作された車両で、火災時に高層階に取り残された人の救出や、高所からの放水および警戒活動を行う。最大で50メートル級(16から17階の高さに相当)のものがある。

(2)はしご付き消防ポンプ自動車 高層建築物の消火または人命救助に対処するため、起伏、伸縮、旋回のできる構造のはしごを消防ポンプ自動車の車台に積載したもの。

(3)屈折はしご付き消防ポンプ自動車 自動車のシャシー後部に全旋回のターンテーブルを備え、その上に油圧シリンダーにより起伏する2節または3節のブームを取り付け、中・高層建物の消火または人命救助を行うもの。

〔3〕化学車
(1)化学消防ポンプ自動車 危険物施設および油槽所など油火災その他の特殊火災の際に脂泡(しほう)を発生させて消火する特殊性能を有する消防ポンプ自動車。

(2)大型化学消防ポンプ自動車 タンクに蓄えた泡原液と水利から導入した水とを一定の比率で混合し、これを大型高所放水車へ圧送する。石油コンビナート火災の消火システムの中核的な役割を果たしている。

(3)大型高所放水車 石油コンビナート火災用の消防自動車で、大型化学消防ポンプ自動車、泡原液搬送車とセット(通称「3点セット」という)で運用されている。この大型高所放水車は、大型化学消防ポンプ自動車から圧送されてきた泡混合液をさらに加圧し、石油タンク等の火点へ毎分3100リットル以上の大量泡混合液を放射し効果的な消火を図る。

(4)高発泡車 高発泡装置を備えた特殊化学車。大量の高膨張泡を送り込み、排煙と消火を同時に行う。

(5)泡原液搬送車 大量の泡原液を搬送するための消防自動車。

〔4〕その他
(1)救助工作車 多くの救助資器材を積載し、火災その他の災害現場において、主として人命救助活動を行う車両。震災時のがれきで埋まった人を探索する画像探査機などの高度な資器材を積載しているものや、水難救助に対応する資器材を積載した車両など、多様である。

(2)耐熱救難車 震災時に、火災や煙により逃げ道をふさがれた人々を救出する消防自動車。

(3)水槽車 消防水利が整備されていない地区における消火活動に必要な水を確保するため、車台に5立方メートルから10立方メートル程度の水槽を装備した消防自動車。

(4)給食車 長時間にわたる災害時に消防隊員に湯茶、食糧の供給を行う。

(5)空気ボンベ補給車 煙の充満するビル、倉庫、地下街などの火災に際し、人命救出、救助、消火に従事する消防隊の呼吸用として用いる空気呼吸器用予備ボンベを積載している。

(6)電源照明車 夜間における消防活動を助けるための照明設備を装備している。

(7)指揮車 消防活動を組織的に展開するために、燃えている箇所、逃げ遅れた人の有無などの情報収集を行い、災害現場での指揮本部として各部隊を指揮統括する車両。

(8)救急車 負傷者・病人などを、緊急に病院に運べるように装備された自動車。

[窪田和弘]


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改訂新版 世界大百科事典 「消防自動車」の意味・わかりやすい解説

消防自動車 (しょうぼうじどうしゃ)
fire engine

消防のために必要な特別の構造,または装置を有する自動車。〈消防法〉では,消防自動車のほか,司令車,無線車,照明車など消防の用に供するあらゆる車両を消防車としている。

 蒸気動力による消防ポンプが発明されたのは19世紀の初めころであり,最初はこれを馬で牽引して用いていた。自動車を用いた消防車としては,1862年ロンドン消防隊が蒸気自動車消防ポンプを使用したのが普及の始まりとされているが,始動に時間がかかることや急な坂を登れないなど欠点があり,1908年ころからガソリン自動車が使われるようになって,真に実用的なものとなった。日本では1910年代に横浜市,名古屋市などの大都市を中心に使用され始めた。

 消防自動車のエンジンやシャシには普通トラック用のものを流用するが,緊急用の性格上,急速なスタート,長時間の高出力および高速運転に耐えられるよう改善されている。

災害の状況に適応して活動できる各種の装置を装備した次の種類がある。(1)消防ポンプ自動車 消防力の主力をなすもので,主ポンプとその付属器具などを装備した消防車。車体の構造,ポンプ性能などは使用する区域の地形,道路,水利,建築物の状況などの条件を考慮して決められるが,通常大都市では,ホイールベース3~4m,ポンプ圧力8.5kgf/cm2以上,放水能力2000l/min以上のポンプを架装したものが多い。ほかに20本以上のホース,数個の各種口径ノズル,5~8mまでとどく2~3連はしご,鳶口(とびぐち),斧などの破壊器具,小型の投光器,空気呼吸器などの呼吸保護器具などを積載し,消防専用無線電話を装備している。(2)水槽付消防ポンプ自動車 水タンクを架装したポンプ車。火災現場に到着後ただちに放水できるので,初期消火に有効である。水がなくなるまでに水利から吸水したり,他のポンプ車から水の補給を受けたりしながら放水ができる。水槽の容量は1500lから3000l程度であるが,飛行場用など特殊な場所で使用するものは8000lを超えるものもある。(3)化学消防ポンプ自動車 ふつうのポンプ車では消火困難な引火性,または揮発性液体の火災(航空機,石油タンクなどの油脂火災)を化学薬剤を使って消火するポンプ車。ポンプ,水タンク,泡原液タンクおよび泡原液と水の混合装置を架装している。水と泡原液とを混合させ,空気を混じて空気の泡として燃焼面を覆って消火する。大型のものでは最大泡放出量3万l/minのものもある。(4)はしご付消防ポンプ自動車 地上高15~45m,3~6連の伸縮自在のはしごを架装したポンプ車。高層建築物火災の際,人命救助,消防隊の進入,はしご上での放水に使用する。はしご昇降にはリフターを装備しているものもあり,また,はしご先端にバスケットを備え,はしごの操作ができるものもある。(5)屈折はしご付消防ポンプ自動車 用途ははしご付ポンプ自動車と同様であるが,先端にバスケットを備えた屈伸自在の2~3段の塔を架装したポンプ車。バスケットに乗った隊員が先端の放水銃を操作したり,救出活動を行う。(6)救助工作車 4t級トラックのシャシに発電機,ウィンチ,投光器などを装備し,ジャッキ,エンジンカッター,ガス切断器,その他各種救助器具を積載,それらの器具を使用し,災害現場において脱出不能となった者などを救助する車。(7)放水塔付消防ポンプ自動車 屈折はしご付ポンプ車同様2~3段の塔を有し,先端の放水銃によって火点に対し上から注水ができるようにしたポンプ車。下からでは火点に有効注水ができない高所の火災に適している。塔の高さは約16~27mまでのものが架装され,また放水銃はリモートコントロール装置で操作する。(8)排煙自動車 可搬式送風兼排煙機を積載し,開口部の少ないビル,地下街などの火災の際,消防活動を妨げる濃煙の排除,あるいは空気の供給を目的に使用される。排煙機を車両に固定し送泡装置を取り付け,排煙機と高発泡機を兼ね備えた排煙高発泡車もある。(9)照明自動車 夜間災害現場での作業を容易にするため,自動車のエンジンで駆動する発電機,数個の投光器を装備して照明作業を行う車で,架装されたクレーン式,またはパンタグラフ式の投光器架台により高所からの照明もできる。(10)司令車 災害現場の消防活動全般を指揮するための車で,消防無線電話機,拡声器,そのほか情報伝達に必要な機器,指揮台,投光器などを備えている。(11)耐熱救難車 震災時に火災,煙などに包まれ逃げ遅れた人々を救出する車。火炎中を走行できるように車体周囲に噴霧ノズルを設け積載水で車体を冷却する。また乗員の酸素補給のための設備をもち,不整地走破も可能である。(12)その他 林野火災工作車,資機材搬送車,泡原液搬送車,レッカー車,クレーン車,レスキュータワー車,ポンプ積載車,広報車などそれぞれの消防活動に応じた消防車がある。
消防
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「消防自動車」の意味・わかりやすい解説

消防自動車
しょうぼうじどうしゃ
fire engine

火災や災害などの緊急事態に対する消火や救助などの装備を施した特殊自動車。防火水槽や消火栓から水を汲んで放水する消防ポンプ自動車(ポンプ車),中高層建築物の火災の消火や高所からの救助を行なうはしご付消防ポンプ自動車(はしご車),水では消火できない火災に対処する化学消防ポンプ自動車(化学車),車内で救急隊員が救命処置を行ない傷病者を病院まで搬送する高規格救急自動車(救急車),災害発生時に現場で消防隊や救急隊に指示を与える指揮車などがある。国民生活上重要な防災活動を行なうため,法規で特殊あるいは緊急自動車として,緊急時には道路を一般車両よりも優先的に走行できる。始動,加速,耐久,機能の確実性に優れたものが要求され,エンジンには寒冷時の始動が容易になるよう,保温装置があり,始動後 1分以内で消防ポンプ活動ができる。(→消防消防船

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百科事典マイペディア 「消防自動車」の意味・わかりやすい解説

消防自動車【しょうぼうじどうしゃ】

ポンプその他各種の装備をもち,火災その他の災害のときに消防活動を行う自動車の総称。消防法では手引動力ポンプ車などを含めて単に消防車という。最も台数が多く消防力の主力をなすものは普通ポンプ車で,大都市では通常軸距4m級以上の自動車を用い,放水能力は毎分2.0m3以上で,はしご,投光器,破壊道具,防毒防煙具,消防専用の無線電話装置を有する。そのほか化学車,水槽付ポンプ車,はしご車,排煙車,照明車,耐熱救難車などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の消防自動車の言及

【消防】より

…次いで前2世紀ころアレクサンドリアのクテシビオスが手動のピストン式ポンプを製作したとされている。ヨーロッパでは水鉄砲式の消火用具からしだいに手押し式のピストンポンプへと移行し,蒸気機関の発明で1829年には蒸気消防ポンプが開発され,さらに内燃機関が出現して1900年ころからガソリンエンジンを用いた消防自動車が製作され,広く使用されるようになった。日本では長期間にわたって破壊消防(後述)を主としていたが,1754年(宝暦4)ころに竜吐水と称する手押しポンプが長崎に出現し,64年(明和1)に江戸幕府が採用して以来このポンプが急速に普及した。…

※「消防自動車」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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