湯河原温泉(読み)ゆがわらおんせん

日本歴史地名大系 「湯河原温泉」の解説

湯河原温泉
ゆがわらおんせん

湯河原町の南部、県境千歳ちとせ川と上流の藤木ふじき川両岸に発達した温泉場。一部は静岡県熱海市にまたがり、箱根・熱海と並び東京の奥座敷といわれる。「万葉集」巻一四に

<資料は省略されています>

と詠まれる「土肥の河内に出づる湯」は当地に比定される。日金ひがね(十国峠)の松葉仙人が湧出を発見し入湯したところ不老長生を得て自由に天空を飛揚したとか、弘法大師が発見したとかの開湯伝説が残る。「五代集歌枕」「八雲御抄」には相模国の名所として「あしがりのゆ」があげられている。正保国絵図に「小梅湯」と載せ、また近世初頭の彦坂元正書状(鎌倉市史史料編一)に「東土肥こゞめの湯へ致湯治候間」とあって、小梅湯・こゞめ湯などとよばれていた。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「湯河原温泉」の意味・わかりやすい解説

湯河原温泉
ゆがわらおんせん

神奈川・静岡県境を流れる千歳川(ちとせがわ)およびこれと落合橋で合流する藤木川沿いにおもに湧出(ゆうしゅつ)する温泉。大半は神奈川県湯河原町に属するが、千歳川右岸の静岡県熱海市(あたみし)泉地区を含む。

 『万葉集』に「足柄(あしがり)の刀比(とひ)の河内に出づる湯の」と詠まれ、古くから知られている。1817年(文化14)の温泉効能番付では箱根、熱海より上位に位置し、切り傷に効能があるとされた。当時は簡単な露天風呂(ぶろ)3か所、湯宿6軒であった。1880年(明治13)ころの浴客の年平均数は箱根の約10万、熱海の約3万5000に対して1700にも満たなかったが、1887年、東海道線が国府津(こうづ)まで、1895年に小田原―熱海間に人車鉄道(後に軽便鉄道)が通じ、さらに1934年(昭和9)丹那(たんな)トンネル開通して東海道線が通じたことにより増加した。温暖な地で、多くの文学者や画家を引きつけ、日清・日露戦争および第二次世界大戦時に軍の転地療養所も置かれた。1923年(大正12)ころは源泉数18、湧出(ゆうしゅつ)量毎分406リットル、2002年(平成14)は源泉数101、湧出量毎分6837リットル、最高泉温90℃、平均泉温61.5℃、年間観光客数539万、うち日帰り客数448万、宿泊客数91万。古くからの温泉街である温泉場地区に万葉公園、美術館、周辺に梅園、ツバキサクラの名所やミカン園、源頼朝(みなもとのよりとも)ゆかりの史跡などがある。

 奥湯河原広河原は1929年(昭和4)に温泉開発に成功して以来、奥座敷的温泉地、海岸部の門川(もんがわ)は1963年に開発されて海浜型温泉地として親しまれている。

 湯河原の地名は、河床から温泉が自然湧出していたことに由来するが、明治以降の開発によって、温泉の水位が80メートル以上も河床下になり、現在はすべて動力揚湯である。泉質は温泉場地区が塩化物泉と単純温泉、広河原が硫酸塩泉、門川が塩化物泉で、いずれも無色透明無臭の火山性温泉である。

[大山正雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「湯河原温泉」の意味・わかりやすい解説

湯河原温泉
ゆがわらおんせん

神奈川県湯河原町と静岡県熱海市にまたがる温泉。箱根外輪山の南東斜面,千歳川とその上流藤木川の岸に沿う。千歳川左岸は神奈川県,右岸は静岡県に属する。泉質は単純泉,食塩泉,硫酸塩泉。泉温は 70~90℃で,湯量は豊富。外傷,胃腸病にきく。関東地方有数の温泉地で,旅館が軒を並べる。藤木川上流には閑静な奥湯河原 (広河原) 温泉がある。外輪山を越えて箱根へ通じる湯河原パークウェイ,椿ラインの観光道路が建設されて箱根回遊が便利になった。一帯はミカンの栽培が盛んで,観光ミカン園も多い。万葉公園,不動滝などがある。奥湯河原県立自然公園に属する。

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デジタル大辞泉プラス 「湯河原温泉」の解説

湯河原温泉

神奈川県足柄下郡湯河原町の千歳川および藤木川沿いに広がる温泉地。一部は静岡県熱海市にかかる。泉質は単純泉、弱食塩泉など。「万葉集」にも記述がみられる古湯。明治以降は、芥川龍之介、小林秀雄といった文人墨客が多く滞在したことでも知られる。地域団体商標。

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