満・充(読み)みつ

精選版 日本国語大辞典 「満・充」の意味・読み・例文・類語

み・つ【満・充】

[1] 〘自タ五(四)〙 物事が時間的・空間的に増大していって、限られた範囲までいっぱいに広がる。みちる。
① 潮が増していっぱいになる。満潮になる。
万葉(8C後)一五・三六一〇「あごの浦にふなのりすらむをとめらが赤裳のすそに潮美都(ミツ)らむか」
② 雨や液体があふれる。川や容器にいっぱいになる。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「二更将に尽きむとして雨遂に滂(はびこり)(ミチ)ぬ」
③ 月が完全な円形になる。満月になる。
※飯室切金光明最勝王経註釈平安初期点(830頃)「満(ミチイク)月の相ひ光りてするがごとくする」
④ 人がいっぱいになる。ある場所にあふれる。
※万葉(8C後)四・四八五「神代より 生(あ)れつぎくれば 人さはに 国には満(みち)て」
⑤ ものがいっぱいになる。不足なく備わる。整う。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六「資産財宝皆悉く豊かに盈(ミテラ)む」
⑥ 光、煙、香、音などが充満する。たちこめる。
※竹取(9C末‐10C初)「屋のうちは暗き所なく光りみちたり」
平家(13C前)灌頂「西に紫雲たなびき、異香室にみち」
⑦ 思い、感情などがいっぱいに広がる。胸などがふさがる。
古今(905‐914)恋一・四八八「わが恋はむなしきそらにみちぬらし思ひやれども行くかたもなし〈よみ人しらず〉」
⑧ うわさ、説などが世の中に広まる。知れ渡る。
源氏(1001‐14頃)若菜下「かく失せ給にけりといふこと世の中にみちて」
⑨ ある基準まで達する。区切りまでゆきつく。満期になる。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「けがらひいみ給しもひとへにみちぬる夜なれば」
今昔(1120頃か)二〇「七日に満つ日、後夜に」
⑩ 思いや願いがかなう。満足する。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「わか君、国の母となり給て、願ひみち給はんよに」
[2] 〘自タ上二〙 ⇒みちる(満)
[3] 〘他タ下二〙 ⇒みてる(満)
[語誌](1)自動詞としては四段に、他動詞としては下二段に活用したが、自動詞は、中世以降は次第に上二段(のち上一段)に活用するようになった。他動詞は、院政期に現われた「みたす」に次第にとってかわられた。
(2)現代例の連用形「みち」は四段(五段)か上一段か決められないが、便宜上、上一段活用「みちる」の項におさめた。

み・てる【満・充】

〘他タ下一〙 み・つ 〘他タ下二〙 (四段の自動詞「みつ」に対応する他動詞形で、「みたす」に先行する形)
① あふれそうになるまで入れる。いっぱいにする。
※万葉(8C後)一八・四〇五七「玉敷かず君が悔いていふ堀江には玉敷き美弖(ミテ)てつぎてかよはむ」
② 不足にあてる。充当する。
※守護国界主陀羅尼経平安中期点(1000頃)一〇「遂に〈略〉官税に充(ミテ)ざることを感ず」
③ ぜんぶ達成する。すっかり果たす。また、終える。終了する。
※平家(13C前)五「われこの滝に三七日うたれて慈救の三洛叉をみてうどおもふ大願あり」
④ (「期日をみてる」意から) 一定の期間を経る。時期に達する。
※東大寺本大般涅槃経平安後期点(1050頃)三「是の短き寿を得て百年にだも満(ミテ)ぬ」
⑤ 願いをかなえる。満足させる。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)一「善説は能く諸の希望を満(みツ)
※平家(13C前)二「衆生所願をみて給へり」

みた・す【満・充】

〘他サ四〙
① 区切られた箇所や空間、容器などを物でいっぱいにする。あふれるまで入れる。広くゆきわたらせる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※幼学読本(1887)〈西邨貞〉五「獅子は其の飢ゑたる腹を十分に満たせば」
② 達成する。すっかり果たす。
※大慈恩寺三蔵法師伝院政期点(1080‐1110頃)七「若し昼日に事有りて充(ミタサ)ざれは」
③ 満足させる。「条件をみたす」
※帰省(1890)〈宮崎湖処子〉九「屡(しばしば)請はるる一年一回の望を満たすべきも」
※不良児(1922)〈葛西善蔵〉「満たされない孤独な少年の心は」

みち【満・充】

〘名〙 (動詞「みつ(満)」の連用形の名詞化) 満ちること。満潮。
※万葉(8C後)九・一七八〇「夕塩の 満(みち)のとどみに み船子を あどもひ立てて」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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