〘他サ五(四)〙
[一] もとの形をくずす。
① 外部から圧力を加えてもとの形をおしくずす。おしつけてこわす。破壊する。また、圧して平たくする。
※類従本赤染衛門集(11C中)「虫のちをつぶして身にはつけずとも思ひ染めつる色なたがへそ」
② ある物を他に転用するために原形を失わせる。こわして、もとの役に立たなくする。
※疑惑(1913)〈
近松秋江〉「もう大抵潰すかどうかして無くしてゐるだらう」
③ 金属製品を溶かして地金にする。鋳つぶす。
④ 家畜などを食べるために殺す。
※破戒(1906)〈
島崎藤村〉一〇「牛肉屋の亭主も入って来たは、屠
(ツブ)された後の肉を買取る為であらう」
⑤ 女を自分の情人とする。
※南水漫遊拾遺(1820頃)四「つぶして居る、色事して居る」
[二] 機能や正常な状態を失わせる。
① 心の平静を失わせる。心を驚かす。「肝をつぶす」「胸をつぶす」の形で用いる。
※源氏(1001‐14頃)賢木「猶このにくき御心のやまぬに、ともすれば御胸をつぶし給ひつつ」
② からだの機能、特に、目・耳・喉のはたらきを失わせる。「目をつぶす」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏「繁は机の前に固くなって坐ったまま、強ひて耳を聾(ツブ)して居る」
③
正気をなくさせる。
正体をなくすようにする。「酔いつぶす」
④ 破産させる。身代や財産を使い果たす。絶やす。滅ぼす。また、役に立たなくさせる。解体する。
※浮世草子・
西鶴織留(1694)一「諸事に付て内証の奢
(おごり)より身体
(しんだい)をつぶしぬ」
※いさなとり(1891)〈
幸田露伴〉二八「代々伝って来た店潰
(ツブ)したとあっては」
※
浄瑠璃・
妹背山婦女庭訓(1771)四「こな様
(さん)ばかり来ずに居て付き合が済むのかい、ただしはおいらを潰
(ツブ)すのか」
[三] 空いているところをうめる。
① 空いている時間を他のことをして費やす。また、時間をむだに費やす。
※
吾輩は猫である(1905‐06)〈
夏目漱石〉二「人間といふものは時間を潰す為めに強いて口を運動させて」
② すきまをうずめる。すきまなくおおう。一面におおう。「塗りつぶす」
※落語・心の眼(1899)〈初代三遊亭金馬〉「
魚河岸だとか
大根河岸だとか
真ん中に黒く書いて廻りを赤く朱でつぶしてある」