デジタル大辞泉
「塩梅」の意味・読み・例文・類語
えん‐ばい【塩梅】
1 調味料の塩と梅酢。
2 料理の味を調えること。味加減。あんばい。
「連日竹葉(=酒)宴酔を勧め、―鼎味を調ふ」〈吾妻鏡・三〉
3 臣下が主君を助けて政治や仕事を程よく処理すること。
「地に降下っては―の臣となって群生を利し給ふ」〈太平記・一二〉
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あん‐ばい【塩梅・安排・按排】
- 〘 名詞 〙
- ① ( 安排・按排 ) ( ━する ) 程よく配置したり処置したりすること。また、あやつること。
- [初出の実例]「此の沙彌別処に安排せよ」(出典:正法眼蔵(1231‐53)栢樹子)
- 「人が造作安排してなさず各己が上にわれとなるやうなぞ」(出典:古活字本荘子抄(1530)一)
- [その他の文献]〔荘子‐大宗師〕
- ② ( 形動 ) ( ━する ) 食物の味加減を調えること。また、その味加減。および、よい味加減であること。えんばい。
- [初出の実例]「それかしは、れうりのあんばいじゃうずにて候。すこし、しほなく候」(出典:御伽草子・鼠の権頭(古典文庫所収)(室町末))
- 「ムウムウ、扨塩梅(アンバイ)じゃ、味(うま)し味し」(出典:浄瑠璃・菅原伝授手習鑑(1746)三)
- [その他の文献]〔書経‐説命〕
- ③ 物事のほどあいや様子。また、やり方。
- [初出の実例]「武士の刀のあんばい見よと、ま一もんじにかけたりけり」(出典:浄瑠璃・傾城反魂香(1708頃)上)
- 「ヲやお前の衿元(えりもと)の風体(アンバイ)が違った様だネ」(出典:人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)二)
- ④ 身体の具合。健康状態。
- [初出の実例]「頭痛が致しまして、あんばいがわるさに隣のお医者様に見てもらひましたれば」(出典:浮世草子・世間侍婢気質(1771)一)
塩梅の語誌
程よく配列する意の「あんばい(安排・按排)」と、塩と梅の酢で食物の味加減を調える意の「えんばい(塩梅)」とが、中世末期から近世初頭にかけて混同されて使われた語とされる。現代では「按配する」「按排する」と、サ変動詞の語幹として使われるとき以外には「塩梅」と書かれるのが普通になった。
えん‐ばい【塩梅】
- 〘 名詞 〙
- ① 食物の調味に用いる塩と梅の酢。塩味と酸味。〔二十巻本和名抄(934頃)〕
- ② ( ━する ) 食物の味を調えること。また、食物の味加減。あんばい。
- [初出の実例]「塩梅調二鼎味一」(出典:吾妻鏡‐元暦元年(1184)六月五日)
- 「上人みづから塩梅を和して」(出典:古今著聞集(1254)二)
- [その他の文献]〔書経‐説命下〕
- ③ ( ━する ) 臣下が君主を助けて政務をうまく処理していくこと。
- [初出の実例]「塩梅道尚故。文酒事猶新」(出典:懐風藻(751)春日侍宴〈藤原史〉)
塩梅の補助注記
近世には「塩梅」は「あんばい」と読まれるようになった。
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塩梅
ものごとの状態。ようす。
[使用例] それからしばらくはしだいにオクターブのあがってくる男の話を殆ど猿が坊主の説教を聞くような塩梅で拝聴していなければならなかった[椎名誠*新橋烏森口青春篇|1987]
[由来] 文字通りには、塩と、酸味を出すために使う梅のこと。儒教の経典、「[書経]―説命・下」では、ある王が大臣に向かって、「若し和羹を作らば、爾は惟れ塩梅なり(スープを作るのにたとえるなら、おまえは調味料にあたる)」と述べています。ここから、「塩梅」は、君主を助けて政治の状態を整える人を指すようになりました。日本では、順序を整えることを表す「按排/案配」と一緒にされて、「塩梅/按排/案配」で、ものごとの状態やようすを広く指して使われています。
出典 故事成語を知る辞典故事成語を知る辞典について 情報
塩梅
えんばい
日本音楽の用語。 (1) 雅楽器の篳篥 (ひちりき) の演奏に特徴的な技法。同一の指使いで,リードのくわえ方や吹きこむ息の強弱によって音高を変化させるもの。たとえば,ある音から跳躍進行して高い音に移る場合には,必ず最初の音の指使いのままで,塩梅によっていったん音を下げてから次の高い音に移る。また,跳躍進行による下行の場合はポルタメント的なゆるやかな音の変化をする。 (2) 能管 (のうかん) では,瞬間的な装飾技法を塩梅という。 (3) 声明 (しょうみょう) において,宮,商,角,徴,羽の5音以外の音を総称して塩梅音という。
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普及版 字通
「塩梅」の読み・字形・画数・意味
【塩梅】えんばい・あんばい
塩味と酢味。ほどよく調和すること。〔文心雕竜、声律〕聲、鹽を得れば、、楡槿(ゆきん)(楡の実と菫菜)よりも滑らかなり。字通「塩」の項目を見る。
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世界大百科事典(旧版)内の塩梅の言及
【ウメ(梅)】より
…【中村 恒雄】
【文化史】
[中国]
中国において,ウメが早春の花として観賞され,詩歌の題材とされるようになったのは後世のことで,古くはその果実に関心があり,スモモ,アンズ,モモなどとともに野生の実が採取され,また《詩経》国風の〈摽有梅〉の詩に歌われたように,春の歌垣(うたがき)に際し,男女がウメの実を投げて配偶者を求め,また愛情のあかしとして贈答する風習があった。果実は保存食となり,またその酸味が調味料として用いられたので〈塩梅(あんばい)〉の語もある。熟れかけの実を籠に盛り,煙突の煙でいぶして薫製にしたものを〈烏梅〉として薬用にする。…
【梅酢】より
…酸味の主体はクエン酸である。《和名抄》には塩梅(えんばい)を〈梅酢也〉としており,この塩梅がやがて〈あんばい〉と読まれて味かげんを意味するようになった。梅酢はそれほど重要な調味料であったといえよう。…
【塩】より
…ザルツブルク(ドイツ語で〈塩の町〉)の塩坑に投じられた小枝がつける美しい塩の結晶を,恋愛心理(結晶作用cristallisation)と結びつけた個所は,比類のないイメージをわれわれに喚起してやまない。【有田 忠郎】
[中国]
味かげんを意味する塩梅(あんばい)の語が《書経》にみえ,〈酒は百薬の長〉という有名なことばの対句に〈塩は食肴(しよくこう)の将〉と《漢書》で使われるように,中国でも塩は当然民族の歴史とともに古く,またきわめて重要視されてきた。黄河文明が発生した地域には山西省の大塩池があり,これを握ることが権力者の一条件で,〈禹貢(うこう)〉が冀(き)州(山西)を帝都とし,周や秦がそこに近い陝西を根拠とするのも当然であった。…
【中国料理】より
…醬(ひしお),豉(くき),酢などの調味料のなかでも,もっとも大事な調味料は塩であった。たとえばわれわれが今日でも日常に使う〈塩梅(あんばい)〉の語は,古く〈鹹塩と酸梅〉の調味,あるいは調味をととのえる意,そして国政を治める宰相の意に引伸した(《書経》)ことからも,そのことはうかがえる。香辛料に木桂,山椒,薑,蓼などが見られる。…
【雅楽】より
…〈吹きもの〉には[篳篥](ひちりき)と各種の笛,[笙](しよう)がある。篳篥は最も多くの種目で用いられる重要な楽器で,〈塩梅(えんばい∥あんばい)〉というポルタメントの効いた奏法に特徴があり,大きな音量で曲の骨格となる旋律を奏する。笛は現在,[竜笛](りゆうてき),[高麗笛],神楽笛の3種が用いられており,細かく装飾的な音の動きは篳篥と好一対をなす。…
【梅酢】より
…酸味の主体はクエン酸である。《和名抄》には塩梅(えんばい)を〈梅酢也〉としており,この塩梅がやがて〈あんばい〉と読まれて味かげんを意味するようになった。梅酢はそれほど重要な調味料であったといえよう。…
【雅楽】より
…〈吹きもの〉には[篳篥](ひちりき)と各種の笛,[笙](しよう)がある。篳篥は最も多くの種目で用いられる重要な楽器で,〈塩梅(えんばい∥あんばい)〉というポルタメントの効いた奏法に特徴があり,大きな音量で曲の骨格となる旋律を奏する。笛は現在,[竜笛](りゆうてき),[高麗笛],神楽笛の3種が用いられており,細かく装飾的な音の動きは篳篥と好一対をなす。…
【篳篥∥觱篥】より
…篳篥の音高は,一つの指づかいのままでも,芦舌のくわえ方や息の吹き入れ方によってかなり大幅に変化する。音高の連続的変化によって旋律進行を滑らかにする〈塩梅(えんばい)〉の手法は,こうした楽器の性格から生まれたといえる。音量は大きいが,表情に富む。…
※「塩梅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」