火山性ガス中毒(読み)かざんせいがすちゅうどく

家庭医学館 「火山性ガス中毒」の解説

かざんせいがすちゅうどく【火山性ガス中毒】

 1997年7月、青森県・八甲田山(はっこうださん)でレンジャー訓練をしていた陸上自衛隊員20人が呼吸困難で倒れ、うち3人が死亡しました。
 また、1か月後には、福島県・安達太良山(あだたらやま)を登山中の50歳代の女性4人が帰らぬ人となりました。
 どちらも、火山性ガスがたまった地域に踏み込んでしまったための事故とみられています。これまでにも、火山や温泉地では、観光客や登山・スキー客が、火山性ガスを吸って倒れる事故がたびたびおこっています。
硫化水素(りゅうかすいそ)(H2S)中毒(ちゅうどく)
 硫黄温泉(いおうおんせん)がわき出す所で発生します。そのほか、石油の精製過程、汚水の処理過程、地下工事などでも発生します。
 目やのど粘膜(ねんまく)を刺激するほか、細胞や組織が酸素を利用するのを妨げ、中枢神経(ちゅうすうしんけい)のはたらきを阻害します。安達太良山の事故は、硫化水素によるとされています。
症状
 濃度が低いと、卵の腐ったようなにおいを感じます。そして、目の痛み、結膜炎(けつまくえん)、角膜炎(かくまくえん)、まぶたのむくみがおこってきますが、このころには、嗅覚疲労(きゅうかくひろう)のために、においは感じなくなってきます。からだには硫化水素の解毒作用が備わっているので、この程度の濃度では、中毒にはなりません。
 ただし、空気中の濃度が500ppmを超えると、頭痛、吐(は)き気(け)、意識混濁(いしきこんだく)、呼吸困難、呼吸まひなどが現われ、30~60分で生命にかかわります。1000ppmを超えると、数呼吸で失神(しっしん)、昏倒(こんとう)し、死に至ります。
治療
 新鮮な空気のある場所へ運び、至急医療機関へ運ぶことが必要です。救助者がガスを吸い込む危険があるので、口うつしの人工呼吸をしてはいけません。100%酸素を使う人工呼吸を行ないます。拮抗薬(きっこうやく)の亜硝酸塩(あしょうさんえん)の注射が行なわれることもあります。
 火山や温泉地では、違和感を感じる所に、長居しないよう注意しましょう。
■亜硫酸(ありゅうさん)ガス(二酸化硫黄(にさんかいおう)、SO2)中毒(ちゅうどく)
 硫黄温泉の出る所で発生します。銅の製錬所のほか、重油、石炭などの硫黄を含むものの燃焼の際にも発生し、大気汚染や酸性雨(さんせいう)の原因にもなります。
 酸度が強く、目やのどの粘膜(ねんまく)を刺激します。
●症状
 5~10ppmになるとせき、くしゃみ、20ppmで目の痛み、流涙(りゅうるい)、鼻やのどの痛み、呼吸困難がおこり、100ppmで喉頭(こうとう)のむくみ、400~500ppmで喉頭けいれんにおちいり、数分で死亡します。
●治療
 目の症状は、流水で洗います。
 せき、くしゃみ、のどの痛みがおこったときは、安静を保ち、医師による24時間の観察が必要です。高濃度のガスを吸入したときには、加湿酸素の吸入を行ないます。気管挿入による酸素吸入が必要なこともあります。
 ぜんそくの症状が現われたときは、気管支拡張薬を使用します。
■二酸化炭素(にさんかたんそ)(炭酸(たんさん)ガス、CO2)中毒(ちゅうどく)
 中毒は、消火設備からもれたり、密室(タンク、船倉、貯蔵庫、サイロ、地下室など)にたまったりしたものを吸っておこることが多いのですが、地中から湧出(ゆうしゅつ)したものを吸っておこることもあります。八甲田山の自衛隊の事故は、二酸化炭素中毒といわれています。
 空気中の濃度が10%以上になると、酸素濃度が十分でも中毒がおこります。
●症状
 10%以上で、視覚障害、耳鳴り、震えがおこり、1分で意識がなくなります。30%になると、即時に昏倒し、死亡します。
●治療
 すぐに新鮮な空気のある場所に連れだし、医療機関に運び、酸素吸入します。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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