改訂新版 世界大百科事典 「火成作用」の意味・わかりやすい解説
火成作用 (かせいさよう)
magmatism
igneous activity
マグマの発生からその上昇,冷却・固結にいたる間に,マグマによってひきおこされる現象の総称。火成作用は火山作用volcanismと深成作用plutonismに大別される。地下のマグマや火山ガスが地表または地表近くに達してひきおこす現象が火山作用であり,地下のマグマが地殻中のいろいろの場所に貫入してひきおこす現象が深成作用である。火山作用によってできる岩石を火山岩,深成作用によってできる岩石を深成岩とよび,両者の中間的な産状(岩脈,岩床,餅盤など)を示すものを半深成岩と呼ぶ。これらを総称して火成岩と呼ぶ。地表でみられる火成岩類には多くの種類があるが,そのなかで最も多いのは,玄武岩と花コウ岩である。玄武岩は火山岩の代表的なものであり,花コウ岩は深成岩の代表的なものである。玄武岩は,海洋地域や安定大陸だけではなく,造山帯にも広くみられる火山岩である。時代的にも始生代の初期から現在までのいろいろな時代に繰り返しみられる。花コウ岩は主として,造山帯に広くみられる深成岩であり,時代的には始生代の初期以降いろいろな時代に繰り返しみられる。近年,マグマの発生の物理化学的過程についての実験的研究がめざましい発展をとげ,発生したマグマのひきおこす火成作用についても,実験的研究と野外研究とによって詳しい説明がなされている。さらに,火成作用の場と火成作用の特徴との関係,火成作用と地球進化との関連などについても論じられるようになった。
マグマの発生
火成作用の源となるマグマは主として上部マントルで発生する。上部マントルの大部分は固体の状態であるが,海洋地域下の上部マントルの低速度層のなかには若干溶けている部分があり,また大陸下の上部マントルのなかでも局部的に溶けている部分があると考えられている。そのような溶けた部分を生ずる物理的要因には,局所的・一時的な温度上昇や圧力低下が考えられる。温度上昇の原因としては,(1)放射性元素の局部的な濃集,(2)下部マントルで発生した熱対流の上昇流と考えられるマントルプリュームの上部マントルへの上昇,すなわちホットスポットの形成などが考えられる。圧力低下の原因としては,(1)地殻の局所的な曲隆によるその直下の上部マントルの圧力低下,(2)上部マントル内の張力作用にもとづく上部マントル・地殻内の張力性断裂運動の惹起と,一時的・局所的な圧力低下などが考えられる。
マグマは複雑な化学組成のケイ酸塩溶融体である。実験岩石学はマグマ発生の物理化学的過程を実験的に解明しつつある。上部マントル物質のなかで,比較的溶けやすい成分はNa2O,K2OおよびFeOなどであり,比較的溶けにくい成分はCaOやMgOである。もとの物質の鉱物組成・化学組成が同じでも,融解の起こる場所の深さ(圧力条件)や関与する揮発性成分の種類が異なると,溶け始める温度や,最初にできる液相の組成が異なってくる。マグマは融解が完了した後にだけ活動するのではなく,いろいろの程度に部分融解した液相がマグマとして活動する。
玄武岩マグマ
上部マントルを構成するカンラン岩質物質が,ある程度(10~30%ぐらい)部分融解して生ずる液は玄武岩質の化学組成をもっている。同じ玄武岩マグマでも,組成の差により,アルカリ玄武岩質マグマ,カンラン石ソレアイト質マグマ,石英ソレアイト質マグマ等に分けられる。このような玄武岩マグマの組成の差が生ずるのは,主としてマグマの発生する場所の深さによると説明されている。そしてそれぞれの玄武岩マグマから分化して生ずる火成岩の性質は多様である。また,造山帯に大量に活動しているカルクアルカリ岩を形成したマグマについては,近年,プレートテクトニクスで次のような説明もなされている。海洋プレートが大陸プレートの下にもぐり込む時,海洋地殻を構成していた玄武岩はエクロジャイトに転移し,それがさらに部分融解して,大量のカルクアルカリ質マグマを生じるというのである。
花コウ岩マグマ
花コウ岩にはマグマ性と考えられる逬入(へいにゆう)型のもののほかに,広域変成作用や花コウ岩化作用によって形成されたと考えられる混成型のものとがある。花コウ岩の起源物質や花コウ岩のでき方については古くから論争が絶えない。近年,花コウ岩中のPbやSrの同位体組成を手がかりにする同位体法が,花コウ岩マグマの起源物質を知るのに有力な手段となっている。これによると,いろいろな地質時代の多くの花コウ岩を生じた起源物質は,マフィックないし超マフィック(玄武岩質ないしカンラン岩質)のものであると推定される。
マグマの分化と固結
上部マントルで発生したばかりのマグマを本源マグマと呼ぶ。発生したマグマは,上部マントルや地殻中の弱所を通ってしだいに上昇し,火成作用として現れる。マグマの上昇と固結が比較的急速に行われるなら,マグマとそれが固まってできた火成岩の組成は,発生時のそれとあまり違わない。しかし,マグマがゆっくり上昇したり,上部マントルや地殻中のある個所に,マグマ溜りをつくり長時間停滞してゆっくり冷却する場合には,結晶分化作用によって,もとのマグマとは化学組成の異なる種々の火成岩を生ずる。またマグマがその通路やマグマ溜りの周囲の岩石と反応して同化作用を行うことがある。
火成作用と地球の進化
火成作用は長い地球の歴史のなかで,常に同一のパターンで行われたのではない。火成作用は地球の進化とともにそのあり方が変わってきた。ここでは,先カンブリア時代の二つの特徴的な事実をあげることにする。(1)36億~30億年前の始生代のグリーンストン帯には,超塩基性溶岩のコマチアイトが多産する。このことは,当時,地下増温率が大きかったことと,地球表層部の温度が高かったことを物語っている。(2)先カンブリア時代には斜長岩の活動が顕著であるが,その活動時期は,次の四つの時期に分けられる。35(±2)億年前のCaに富む斜長岩の形成,22(±3)億年前と12(±2)億年前との層状貫入岩体に伴う斜長岩の形成,15(±3)億年前の高度変成岩に伴う大きい斜長岩体の形成。22億年前と12億年前には,大陸地殻が安定化し固化したことを物語っており,この時期には花コウ岩の活動や変成作用はみられない。この点で15億年前とは対照的である。
→深成作用 →マグマ
執筆者:諏訪 兼位
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