為替相場政策(読み)かわせそうばせいさく

改訂新版 世界大百科事典 「為替相場政策」の意味・わかりやすい解説

為替相場政策 (かわせそうばせいさく)

広義には為替相場に影響を及ぼす一般的な経済政策金融財政政策等)を含むとも解されるが,狭義には為替相場そのものを政策主体が操作する場合と,直接それに代替することを目的として採られる政策とに限定して為替相場政策という。前者には,為替相場制の選択(固定・変動相場制(固定為替相場制変動為替相場制),単一・二重・複数相場制等)と,与えられた為替相場制のもとでの平価変更や為替安定化操作があり,後者には,外国為替需給に直接統制を加える為替管理,および利子率や預金準備率等の金融面への間接的統制を通じて外国為替の需給を調節しようとする政策を含めることができる。為替相場政策の基本的な目的は,一国の国際経済取引とその決済を円滑に発展させるために,為替相場を適切な水準に保つことである。どのような為替相場制度が選ばれるかは,その国の経済構造や金融制度の発達程度によって異なるが,ある実証分析の結果によれば,経済発展の高い段階にある国ほど,また貿易相手国とのインフレ率格差の大きい国ほど変動相場制を,逆に経済の開放度(貿易依存度)が高く,また輸出の品目別・地域別集中度の高い国ほど固定相場制を選ぶ傾向がある。1983年9月末現在,IMF加盟145ヵ国中92ヵ国が特定国通貨(主として米ドル)またはSDRその他の通貨バスケットに対する釘付け政策を採っているが,先進諸国はヨーロッパ通貨制度EMS)参加8ヵ国の取決め(〈共同フロート〉の項参照)を別にすれば,おおむね管理フロート制を採用している。

 為替相場の変動を安定化するためになされる通貨当局の介入(外国為替市場での自国通貨を対価とした外貨の売買)は,為替平衡操作(または為替安定化操作)と呼ばれるが,その名称は,両大戦間の為替動揺期に導入されたイギリスの為替平衡勘定(1932)およびアメリカの為替安定資金(1934)の活動に由来する。固定相場制下では,この操作を通じて為替相場の変動が狭い範囲内に限定されるが,大規模な国際収支の赤字黒字が生じた場合には平価の切下げ・切上げによって国際収支の均衡回復が図られる。変動相場制下の介入が為替相場変動の安定化に寄与できるか否かは,議論の多い問題である。サミット先進国首脳会議)参加7ヵ国の通貨当局専門家作業部会の報告書(1983年1月)によれば,(1)日中または日々の乱高下の平準化,(2)市場が無秩序な状況に陥った場合の信認の回復,(3)市場に対する通貨当局の断固とした政策態度の表明等の場合には介入政策が有効であったことが多いが,他方,(1)持続的な市場圧力が生じている場合や,(2)対内・対外政策目標が矛盾している場合には介入は問題解決の手段となりえないというのが一般的な見方である。固定相場制下の平価変更の場合と同様,介入についても他の国内経済政策(とりわけ金融・財政政策)による支援が不可欠といえよう。

 為替相場の変動やその可能性を回避する目的で採られる間接的統制手段の具体例としては,1963-74年のアメリカの利子平衡税(外国証券からの所得に対する特別課税),1970年代初頭の西ドイツのバールデポBardepot(対外借入れの一定比率を現金で中央銀行へ預託させる制度)およびスイスの逆利子預金(スイス・フラン預金を保有する外国の居住者に中央銀行へ利子を支払わせる制度),および1972-74年に日本で採られた自由円預金残高に対する高率の準備率適用等の資本規制と,輸入預託金(輸入額の一定比率を保証金として市中銀行に預託させ,通常はそれをさらに中央銀行に再預託させる制度)とが挙げられる。しかし,金融制度が十分発達していない発展途上国で輸入預託金制度が金融政策の補完的手段として用いられていることを別にすれば,1970年代以降急速に発展した国際金融・資本市場のもとでは,規制範囲の拡大といった長期的弊害を伴わずにこれらの間接的手段に頼れる余地はほとんど残されていない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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