一般に留置権を除く担保物権に共通な特性。質権,抵当権および先取(さきどり)特権はいずれも目的物の交換価値から優先弁済をうけることにより債権担保の機能を果たすものであるから,その目的物が価値的に別のもの(前記の損害賠償請求権,火災保険金請求権など。これを代位物Surrogatという)に姿を変えた場合に,その変形物に効力を及ぼすものとすることが衡平に適する。これを物上代位という。たとえば甲が乙に質入れ中の動産が第三者丙の過失によって失われた場合に,甲は丙に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を取得するが,乙の質権はこの損害賠償請求権上に存続する。また甲の所有家屋上に乙のため抵当権が設定されていたところ,この家屋が類焼して,甲は丙保険会社に対し火災保険金請求権を取得するが,乙の抵当権は,この保険金請求権上に存続する。
日本民法は先取特権について,目的物の売却,賃貸,物権設定,滅失,毀損によって担保設定者が取得した金銭その他の物への権利(売却代金,賃料等,保険金等への請求権など)の上に効力を及ぼすと規定し(民法304条),これを質権,抵当権にも準用する(350,372条)。
執筆者:東海林 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
担保物権の目的物が売却・賃貸・滅失・損傷されたことにより、その所有者が金銭その他の物を受ける場合に、担保権者がそれらの物のうえに優先弁済を受ける権利を行使すること。たとえば、担保の目的物が売却された場合に、担保権者は優先弁済を受ける権利を売買代金に対して行使することができる。しかし、そのためには担保権者は、支払いがなされる前に、売買代金請求権を差し押さえなければならない。同様に、担保の目的物が他人の不法行為で滅失した場合には、損害賠償請求権に物上代位することができる。先取特権・質権・抵当権はこの効力をもつ(民法304条・350条・372条)。これらの担保物権にこのような効力が認められるのは、これらの担保物権が目的物それ自体を目的とするのではなく、その交換価値を把握するものだからである。すなわち、仮に目的物が滅失したとしても、その交換価値を表すものが残っている場合には、そのうえに担保物権は存続する。たとえば、抵当権の設定された建物が焼失したとしても、抵当権設定者(建物の所有者)が火災保険金請求権を有する場合には、抵当権者は、その火災保険金請求権を行使することができる。したがって、交換価値の把握を目的としない担保物権、すなわち目的物を留置することによって債務の弁済を促す留置権には物上代位性は認められない。
[高橋康之・野澤正充]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…保険者が被保険者に保険金を支払ったときに,一定の要件のもとに,被保険者の有するある種の権利が保険者に移転することをいう。保険代位は保険金の支払により被保険者が不当な利益を得ることを防止する措置であり,損害の塡補(てんぽ)を目的とする損害保険契約のみに認められ,生命保険契約には認められていない。商法上,保険代位には残存物代位(661条)と請求権代位(662条)がある。前者は,保険の目的が全部滅失し保険金が全部支払われた場合にその目的について有していた被保険者の権利が保険者に移転することであり,海上保険における難破物や火災保険における焼残物に対する所有権などがある。…
※「物上代位」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加