歌舞伎狂言の梗概を物語風に記した書籍の総称。挿絵入りであるところから〈絵入(えいり)狂言本〉ともいう。狂言本は,歌舞伎の最初の充実期ともいうべき貞享・元禄期(1684-1704)に刊行され,流行し,1739年(元文4)の《けいせいあらし山》まで京坂と江戸で約200種が出版されている。その形式・体裁は,京坂と江戸,また出版年次によって相違があるが,一般には縦本の半紙本形式で,表紙には左方に狂言名を記した外題簽,その右に名題・座元名および主演級の役者4名ほどを記した方簽を張り,見返しには役人替名が連記してある。本文は1冊10丁前後で,ふつうこれに挿絵が見開き2面ないし4面ある。その記述の形式から見て,当時流行の浮世草子や絵入浄瑠璃本などの影響を強く受けて成立していることが窺われる。ほかに大当り狂言に限り,主な役者の芸評を加え,本文の内容を豊富にした,上下2冊の〈上本(じようほん)〉が刊行されたものもある。狂言本は,当時の歌舞伎狂言の内容を知る上で,役者評判記,番付と並んで,最も貴重で重要な資料といえる。《元禄歌舞伎傑作集》などに収録。
執筆者:宮本 瑞夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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