獅子文六の長編小説。1950年に《朝日新聞》に連載。戦後の混迷の中で,どの世代も自由な生き方を模索している世相を,いわばおとぎ話風に描いた作品である。南村五百助(いおすけ)は良家の出身で,西郷隆盛を思わせる風貌に似合わず気が弱い。妻の駒子は気が強く,女権に目覚めたばかりで,家計の半ばを支えている。駒子は,会社をやめた夫を単なる怠け者と誤認して家から追いだし,恋愛のまねごとを始める。五百助は〈お金の水橋〉下に住むバタ屋の生活共同体に仲間入りし,性に合った暮しを楽しむ。しかし,五百助が密輸事件にまきこまれたのをきっかけに,結局駒子が折れて五百助は家に戻り,駒子は会社づとめ,五百助は家事を受けもつ暮しが始まる。〈とんでもハップン〉など流行語を連発する戦後世代,バカ囃子に興ずる老世代,社会転覆を謀る旧軍人なども登場し,錯綜した戦後の現実を照らし出す。
執筆者:村上 光彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
獅子文六(ししぶんろく)の長編小説。1950年(昭和25)5月から12月まで『朝日新聞』に連載。51年朝日新聞社刊。有能で活動的な妻駒子(こまこ)に支配されていたでくの坊の南村五百助(いおすけ)は、「自由が欲しく」なって会社を辞め、妻にも追い出されてばた屋小屋に住み着く。妻も何人かの男と浮気心をおこすが、結局は夫が恋しくなり、夫も密輸団事件に絡んでわが家に連れ戻された。妻がまた服従を強いるので家を出ようとすると、「ごめんなさい。敗けたわ……家にゐて!」と泣きつくという物語で、敗戦直後の自由主義や男女同権思想を、戦後風俗を巧みに取り入れながら痛烈に風刺したユーモア小説である。「とんでもはっぷん」などの流行語を生み、松竹と大映の2社によって競作映画化されるなど大きな反響をよんだ。
[都築久義]
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