理学部(読み)りがくぶ

大学事典「理学部」の解説

理学部
りがくぶ

[理学と理学部]

理学の源流は,人類文明が始まった古代における天体の運行に関する研究に遡る。理学は自然界にひそむ原理や法則および現象を探究する学問であり,その根源はあらゆる自然現象について「なぜだろう」と問い,知りたいと思う,人間に元来備わる知的欲求にある。理学を構成する数学・物理学・化学・生物学・地学等に関する知識,研究方法,自然観などは人類の文化・文明の豊かさの基盤になっている。理学の知識は工学農学,医学等の実学分野の基礎である。また一般に「科学的方法」といわれる理学の研究方法は自然科学にとどまらず,人文・社会科学の研究にも導入され,専門知識の体系化において根幹的な役割を果たしている。そして理学は,実験・観測および理論等に基づく合理的な自然観を広く社会に与えてきた。

 理学部は,上記のような理学の意義を理解し,理学の素養(知識・能力・態度)をもって,広く社会に貢献できる人材の育成を教育目的としている。理学の素養には,各分野固有の専門的知識や能力を始め,問題の本質を見極めようとする態度,問題解決にあたり科学的推論等に基づく合理的な筋道を立てられる能力,未知事象に対して忍耐強く挑み続ける姿勢,自然現象の文化としての愉しさを伝えられる能力等を挙げることができる。

 理学はあらゆる分野に通ずるため,理学の学位修得者の進路は非常に多岐にわたる。理学部卒業者の大学院進学率は一部の大学で8割を超えるなど高いことから,進路の傾向を見る際には,大学院修了後の進路も合わせて考慮する必要がある。学部卒業段階での就職先には各分野の専門職に加え,公務員や企業の事務職・総合職など理学の汎用的素養を活用できる文系的職業も多いという特徴がある。一方で,大学院修了後の就職先には,研究機関や企業の研究者・技術者を始め,高度な専門的素養が必要な職業が多くなる。このほか,理学部は中等教育の数学・理科の教員養成においても主要な役割を担っている。

[組織]

日本で最初の理学部は,1877年(明治10)創立の東京大学に設置された。2016年(平成28)5月現在,理学部(理学院含む)を有する国立大学は30大学,私立大学は12大学である。理学部を構成する組織には数学,物理学,化学,生物学,地球惑星科学,天文学等を専攻する学科やコースがある。近年では,理学の学際的・総合的な分野の教育研究を行う情報学・環境学関連の学科等も設置されている。以上の学科等は理学部でなく,理工学部(日本)や文理学部(日本)等に設置されている場合もある。また,理学の教育研究を行う講座や研究室が,教育学部や教養学部に設置されている場合もある。その一方で,生物学部(日本)等,理学の一分野が独立した学部も一部の大学で見られる。このように理学の教育研究は,理学部という一つの形態に収まることなく,多様な組織形態においてなされている。

[教育研究の現状と課題]

日本はノーベル物理学賞,化学賞,医学生理学賞およびフィールズ賞の受賞者を2016年5月時点で計24人輩出していることからも,理学に関係した基礎研究において卓越した成果をあげてきたと言えよう。その一方,激しく変化する現代社会において,多くの大学の理学部は継続的に教育改革に取り組んでいる。ここでは,その教育的課題および改革の例として,次の三つを挙げる。第1に,少子高齢化社会において,あらゆる分野で人材の確保が課題となっていることから,理学関係者は理学部を志望し将来研究者や技術者を目指すような生徒を精力的に支援している。その一例としてスーパーサイエンス・ハイスクール,科学コンテスト,科学オリンピック等の取組みへの参画等が挙げられよう。さらに,それらの取組みで優れた成績をあげた生徒を受け入れるための推薦入試・AO入試等の制度を導入する大学も増えている。

 第2に,将来予測が困難な時代においては主体的に考える力が必要であるとされ,能動学習(アクティブ・ラーニング)への転換が求められるようになったことから,一部の大学では理学教育におけるアクティブ・ラーニング型の授業法を開発・実施している。たとえば,従来の学生実験は学生が実験書に従って実験を行う受動的な形式であったため,学生が実験計画から考える課題解決型の授業法が開発された例もある。第3に,大学教育の成果についての社会的な説明責任が高まったことから,理学部およびその学科等に対しても,学士課程教育を通じて学生が身につけるべき資質・能力の目標を学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー:DP)において明確化するよう求められている。その上で,学生がどの程度の能力を身につけたかを評価し,その評価をもとに教育改善を行うという教育の質保証をいかに実質化するかが,理学部における現在の課題である。
著者: 安田淳一郎

参考文献: 日本学術会議「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準(各分野)」:http://www. scj. go. jp/ja/member/iinkai/daigakuhosyo/daigakuhosyo. html

参考文献: 中央教育審議会「我が国の高等教育の将来像(答申)」「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)」「学士課程教育の構築に向けて(答申)」

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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