中国、唐代の詩人白居易(はくきょい)の長歌。816年の作。題の「行」の字はもともと「引」。「引」とは歌詩の一体。制作の当時、白氏はあらぬ罪を着せられ、中央から地の果てとも思われた潯陽(じんよう)に追放されていた。秋のある月の夜、かつて長安で琵琶の名手とうたわれ、いまうらぶれて江辺に漂泊する女性に巡り会う。その都の手ぶりにかき鳴らす曲調に心動かされ、沸き上がるファンタジーを「間関たる鶯語(おうご) 花底に滑らかに、幽咽(ゆうえつ)せる泉水 氷下に難(なや)む」などと歌う。曲調を言語に翻訳し文字に定着しようとする。やがて奏者の問わず語りの、運命のままに流される落魄(らくはく)の告白に転ずる。そしてその告白に照らし出された、詩人自らの敗残の身上への嘆きに結ばれる。かくて印象の強い前奏によって、女性の告白も詩人の左遷のことも、すべて「淒淒(せいせい)」たる曲調となって響き、ついに自らの「天涯淪落(りんらく)」の嘆きをせり上げる琵琶の調べそのものに似る。一編は劇的な叙事の間に鮮烈な叙情をひらめかせ、抑揚の強いリズムを広げ、揺るぎない形象に結晶している。まさしくかつて評されたように「千秋の絶調」である。ために当時から多くの人々に感銘を与え、宣宗皇帝も弔詩で「胡児(こじ)も能(よ)く唱(うた)う 琵琶の篇(へん)」という。域外の若者にさえ歌われたのである。そしてそのまま中国の近世文学のみならず、わが国の文学にも、『源氏物語』以後、俳壇に至るまで、広く影響を及ぼすものとなった。
[花房英樹]
『アーサー・ウェーリー著、花房英樹訳『白楽天』(1959・みすず書房)』▽『花房英樹著『白居易研究』(1971・世界思想社)』▽『近藤春雄著『長恨歌・琵琶行の研究』(1981・明治書院)』
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…また起源をさかのぼってペルシアの古楽器バルバットやビバットに関連づける説もある。
[中国,ベトナム,朝鮮]
すでに唐代の中国で前記3種の広義の琵琶が形を整え(その流行は白楽天の詩《琵琶行》などで裏付けられる),それらが周辺諸国に伝えられた。奈良の正倉院に保存されている4弦の曲頸琵琶と5弦の直頸琵琶がそのなごりである。…
※「琵琶行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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