工業教育(読み)こうぎょうきょういく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「工業教育」の意味・わかりやすい解説

工業教育
こうぎょうきょういく

職業教育の一部をなす産業教育のうち、工業に関係する教育をいい、学校で行う教育と学校外で行う教育とに大別される。学校での工業教育は、中学校、高等学校、大学および高等専門学校で行われる。中学校での教育は技術・家庭科のなかに含まれ、普通教育の一部であるのに対して、そのほかは専門教育である。専門教育としての工業教育は、狭義には高等学校の工業科の教育をさし、広義には大学や高等専門学校の工学教育をも含む。

 学校外で行う工業教育は、古い時代には徒弟制度があり、現在では、1969年(昭和44)制定の職業能力開発促進法に基づいて設けられた各種の公共職業訓練施設や、企業が必要とする技能訓練のための事業内職業訓練施設などがある。

[三好信浩]

沿革

西洋では、手工業者ギルドが崩壊するに伴って、職人を対象とする学校教育が組織されるようになった。とくに、産業革命期になると、工業技術の教育が必要となり、たとえばドイツでは、19世紀前半中等の工業学校が設けられた。その世紀の後半になると、そのなかから工科大学に昇格するものが現れた。フランスでは、18世紀末にエコール・ポリテクニクとよばれる理工科大学校が成立し、各種の工業専門学校へ進む道が開かれた。イギリスでは、民間の職工講習所運動が盛況をみせ、技術カレッジへ発展するものもみられた。

 日本では、幕末期に西洋の軍事技術を導入するための技術伝習が始まった。明治新政府が成立すると、まず工部省によって工業人材養成のための工学寮工部大学校)がつくられ、イギリス人教師ダイアーHenry Dyer(1848―1918)の指導のもとで先進的な工業教育が開始され、その基礎がつくられた。文部省も、開成学校において工業の専門教育に着手し、ドイツ人教師ワグネルの建議をいれて製作学教場を設けた。さらに、1881年(明治14)には東京職工学校を設け、職工教育の模範を示すとともにその教員養成を図った。その後、実業教育法制によって、工業学校、徒弟学校、工業補習学校を設け、さらにそのうえに高等(専門)の工業学校を置き、工業教育の体系化を進めた。

 その後の展開をみると、ダイアーの系譜は帝国大学工科大学の工業教育へ、ワグネルの系譜は中等・高等教育の工芸教育へと引き継がれ、東京職工学校の発展した東京高等工業学校(東京工業大学の前身)においては、手島精一が日本的な工業教育の基盤を確立した。

[三好信浩]

現況

第二次世界大戦後は、技術革新の課題にこたえるため、工業教育は質・量両面において大きく発展した。高等学校の工業科の生徒数の増加率は、他のどの科よりも急速であったし、大学の工学部も大幅に拡充された。2000年(平成12)現在、大学(学部)学生のうち工学を専攻する者は18.9%あり、大学院修士課程では実に41.4%の者が工学を専攻している。また、1962年から設けられた高等専門学校は、現在62校を数え、およそ5万7000人の生徒が在籍しているが、商船学科などごく一部を除いて、そのほとんどが工業の各科を専攻している。

 高等学校の工業科については「学習指導要領」が定めている。その内容は産業構造の変化や産業界の要請などによって若干の変化を示している。1999年(平成11)の改訂によれば、「工業の各分野に関する基礎的・基本的な知識と技術を習得させ、現代社会における工業の意義や役割を理解させるとともに、環境に配慮しつつ、工業技術の諸問題を主体的、合理的に解決し、社会の発展を図る創造的な能力と実践的な態度を育てる」と規定している。10年前の改訂と比べて、99年の改訂では「環境に配慮しつつ」の文言が加えられている点に特徴がみられる。

 日本が工業化に成功した原因の一つは、その充実した工業教育制度にあるといわれる。しかし、内容面からみれば、明治以来、西洋の工業技術の移植に力を注いだため、独創的な技術開発になお遅れがみられるし、ワグネルの系譜を引く工芸教育も不振である。工業教育のなかに、人間と工業および工芸の調和を図り、教養的な教育を充実させること、ダイアーの目ざした実践的能力の形成を徹底させることなど、なお課題は多い。

[三好信浩]

『国立教育研究所編・刊『日本近代教育百年史9 産業教育1(幕末~1915年頃)』『日本近代教育百年史10 産業教育2(1915年頃以降)』(1973)』『三好信浩著『日本工業教育成立史の研究』(1979・風間書房)』『原正敏著『現代の技術・職業教育』(1987・大月書店)』『岩内亮一著『日本の工業化と熟練形成』(1989・日本評論社)』『関口修・木村寛治著『工業技術教育』(1995・産業図書)』『風間効著『戦後工業教育の展開』(1997・あづま書房)』『三好信浩著『手島精一と日本工業教育発達史』(1999・風間書房)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「工業教育」の意味・わかりやすい解説

工業教育
こうぎょうきょういく

初等教育後の職業教育のうち,第2次産業に従事する人を養成する教育をいう。伝統的な徒弟制度における教育から起り,19世紀に学校工業教育が生れた。高等教育段階の工業教育は,産業の近代化につれて発展するが,中等工業教育は,工場の人的構成,労務管理の態様,工業従事者相互の同業組合的団結力などが影響して,複雑な学校制度として構築される。一般的には,補習教育的な低度工業教育と中等工業教育の分化が生じ,前者は技能の熟練を目標とし,後者は工学知識を目標とする。現在,工業教育の一部は学校外に移され,企業内教育,公共職業訓練の形で整備されつつある。

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