生存競争(読み)セイゾンキョウソウ

デジタル大辞泉 「生存競争」の意味・読み・例文・類語

せいぞん‐きょうそう〔‐キヤウサウ〕【生存競争】

《「種の起源」にあるstruggle for existenceの、加藤弘之訳語といわれる》
ダーウィン進化説の中心的概念個体が次の世代を残すためによりよく環境に適応しようとし、生物どうし、特に同種の個体間で競争すること。適応できない個体は自然淘汰されて子孫を残さずに滅び、これが進化の要因であるとした。
社会生活の中でみられる食わんがための競争。「生存競争の厳しい業界」

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精選版 日本国語大辞典 「生存競争」の意味・読み・例文・類語

せいぞん‐きょうそう‥キャウサウ【生存競争】

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] struggle for existence の訳 ) マルサス人口論からヒントを得たといわれるダーウィンの進化論の中心概念。生物のすべての種は多産性を原則とするので、限られた自然環境内で生存し子孫を残すためには、同種または異種の個体間で食物や生息空間で共通の要求をもつ場合、これらの生息条件を奪いあう形になる。これを競争に見立てていう。ダーウィンはこれに基づいて自然選択説を立てた。また、人間社会で生活のために生ずる競争の意にもいう。〔哲学字彙(1881)〕

生存競争の語誌

明治一二年(一八七九)頃、加藤弘之によって造られた訳語だと言われる。その「人権新説」には数多くの用例が見られ、社会に大きな反響をまき起した書物であるところから、早くに一般化したと思われる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「生存競争」の意味・わかりやすい解説

生存競争
せいぞんきょうそう

生活に必要な資源(食物、生活空間など)に関して共通の要求をもつ生物の間でみられる相互作用をいう。現代の生物学では、単に競争competitionということが多い。同種個体間の競争を種内競争、異種間の場合を種間競争という。生存競争というと「弱肉強食」というイメージを思い浮かべる人が多いが、このような食うものと食われるものとの間の相互作用は含まれない。ただし、生存競争あるいは「生存闘争」ということばは、ダーウィンの『種の起原』にあるstruggle for existenceの訳であり、本来そこでは、同種・他種の生物をはじめ、物理化学的環境条件までも含めた、さまざまな生活条件と生物との相互作用の全体を意味するものとして使われていた。つまり、ダーウィンは、生物が高い増殖能力をもちながら、実際には、その数は低く、ほぼ一定に保たれていることから、生物の数の増加を抑制する作用が自然界にはあるに違いないと考え、その作用をもたらす原因として生存競争を想定したのである。同時にダーウィンは、生物の変異性に着目し、環境条件により適応した変異が生存競争の結果として保存され、徐々に生物は変わっていくことにより、新しい種が形成されるという、有名な自然選択説を提唱するに至るのである。彼自身は、生存競争の考えをマルサスの『人口論』をヒントに着想したとしているが、現在では、当時の社会に普及していた、自由競争による発展という通念の反映であるとする見方が有力である。生存競争の概念は、その後人間社会に再移入され、戦争、人種や階級の差別を合理化する、安易な社会ダーウィニズムを生み出した。これに対しクロポトキンは、『相互扶助論』のなかで、自然界では生物はむしろ助け合うことが普通であると主張し、社会ダーウィニズムを批判している。最近、生物学の一分野として遺伝子の利己性と競争を中心概念とする社会生物学が盛んになってきているが、ヨーロッパやアメリカではふたたび社会的な問題として論議が闘わされているようである。

[上田哲行]

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四字熟語を知る辞典 「生存競争」の解説

生存競争

生物が限られた自然環境内で生存し子孫を残すために、よりよい環境条件を奪い合う争い。また、人間社会で生き残るための競争。

[使用例] 現代は生存競争の域をはなれて、ほとんど戦争状態にちかづいている[石川達三*青春の蹉跌|1968]

[使用例] ああ、生存競争と戦争の恐怖のない時代に、これだけ生きることができて楽しかったな[星新一*生活維持省|1961]

[解説] ダーウィンの進化論の中心概念。英語struggle for existenceの訳語。

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世界大百科事典(旧版)内の生存競争の言及

【自然淘汰】より

…雌雄二形の一部は,狭義の自然淘汰の結果として説明できることがその後明らかになって,一時は雌雄淘汰という概念は不必要だとされたこともあったが,今日では再びその必要性が認められている。 ダーウィンはその著書の中で,生存闘争(生存競争)struggle for existence,最適者生存survival of the fittestという言葉を自然淘汰とほとんど同じ意味で使った。これは不幸なことで,さまざまな誤解を生じた。…

※「生存競争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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