産褥期の注意すべき症状と対策(読み)さんじょくきのちゅういすべきしょうじょうとたいさく

家庭医学館 の解説

さんじょくきのちゅういすべきしょうじょうとたいさく【産褥期の注意すべき症状と対策】

◎お産のあとの回復
 産褥期とは、妊娠・分娩(ぶんべん)によっておこった母体の変化(全身および性器)が、妊娠前の状態に完全にもどるまでの期間、6~8週をいいます。
●産褥期のからだの変化
●注意すべき症状と対策

●産褥期(さんじょくき)のからだの変化
 体温 お産当日と翌日ぐらいは、疲労や分娩時の傷などが原因で体温が上昇することがありますが、38℃をこえることはほとんどありません。通常、24時間以内に平熱にもどります。
 血圧 お産のあと徐々に下がり、正常以下になることもあります。
 尿 お産の直後は、一時的に膀胱(ぼうこう)や尿道(にょうどう)がまひして、自分で排尿できないことがあり、細いゴム管で導尿(どうにょう)してもらいます。また、お産中から少量のたんぱく尿が出る場合がありますが、産後1~2日でなくなります。
 汗(あせ) 産後1週間から10日くらいまでは、尿量とともに汗も増えます。
 便(べん) 排便は、産後3~4日たってからが多いものです。
 胃腸のはたらきが鈍るため、便秘(べんぴ)しがちですが、1日1回は排便を試み、3日以上便通がなければ緩下剤(かんげざい)を使ってもよいでしょう。
 体重 お産により、赤ちゃんや胎盤(たいばん)、羊水(ようすい)、血液などが体外に出るため、平均5~6キロ減り、その後も少しずつ減少して、約5週間で妊娠前の体重にもどります。
 月経 産褥期には、内分泌(ないぶんぴつ)系のはたらきが正常にもどっていないために、無月経(むげっけい)が続きます。授乳をしていない場合は、産後6~8週で月経がくることが多いようですが、授乳している場合はそれより遅れます。
 子宮 お産の直後はかたく収縮し、おへその下約3~4cmにあることが多いのですが、その後一時的に押し上がり、おへその高さぐらいになります。それからは徐々に収縮し、約2週間でおなかの上から触れなくなります。この子宮の収縮は、産褥の経過の良否を判断するたいせつなポイントとなります。また子宮の収縮は、経産婦のほうが初産婦より遅いことがあります。
 悪露(おろ) 悪露とは、産褥期に性器から排出される分泌物をいい、子宮、腟(ちつ)、外陰部の傷からの分泌物(血液やリンパ液)が含まれます。この悪露の性状は、日がたつごとに変化し、子宮内壁の傷の回復状態を知るためのたいせつなポイントとなります(表「悪露の種類」)。
 乳汁(にゅうじゅう) 個人差はありますが、多くの場合、産後2~3日目から乳房がふくらんでかたくなり、乳汁の分泌が始まります。これを初乳(しょにゅう)といい、黄白色の濃厚な乳汁で、抗体やビタミンが多く含まれています。規則的な授乳によって、乳汁分泌は産後約10日で確立され、栄養価の高い成乳(せいにゅう)となります。
 心理 お産による疲労や脱力感で無口、無気力になったり、逆にお産の喜びで、興奮したり多弁になったりすることもあります。これには個人差がありますが、程度がすぎる場合や、その状態が持続、あるいは悪化する場合は、医師に相談してください。

●注意すべき症状と対策
 出血 出血の量には注意が必要です。お産の直後ではなく、ベッドに帰ってから塊(かたまり)がともなうような大量の出血があったら、ただちに医師にみてもらってください。子宮復古不全(しきゅうふっこふぜん)(「子宮復古不全」)や晩期出血(ばんきしゅっけつ)(「晩期出血」)の疑いがあります。
 悪露の異常 血のまじった悪露や茶褐色の悪露が、産後6~8週間すぎても続いていたり、量が増える場合には、医師に診察してもらいましょう。子宮の回復の遅れなのか、胎盤や羊膜(ようまく)の一部が残っていないかなど、調べてもらう必要があります。
 発熱 熱が38℃以上ある場合や、悪寒(おかん)、震え、腹痛、背部痛がある場合には、産褥熱(さんじょくねつ)(「産褥熱」)や腎盂腎炎(じんうじんえん)(「腎盂腎炎(腎盂炎)」)、膀胱炎(ぼうこうえん)(「膀胱炎」)などの感染症の可能性が考えられます。汚い悪露や濁った尿が出ていないか確かめ、医師の診察を受けて、早めに抗生物質などの治療を行なえば大事に至らずにすみます。また、暖かくして安静にし、水分もしっかりととっておきましょう。
 乳房痛 乳房の痛みは非常につらいので、つぎのような予防に十分気をつけることがたいせつです。
 まず第1に、乳管(にゅうかん)が閉塞(へいそく)しないように、授乳前に少し母乳をしぼるか、ひまをみつけては乳房のマッサージをしてください(図「乳房マッサージ(1)」図「乳房マッサージ(2)」)。
 第2は、1回ごとの授乳を長くしないことです。片方の乳房で15分くらいまでにしておきましょう。長くしゃぶらせていると乳くびがふやけて、傷つきやすくなります。
 第3は、授乳の姿勢をいろいろと変えて、赤ちゃんの口に含ませる乳くびの角度を変えることです。また、乳くびだけでなく、乳輪(にゅうりん)まで深く含ませるようにしてください。
 第4は、乳房を清潔に保ち、乳くびを乾燥した状態にしておきましょう。そのためには、いつも胸に清潔でやわらかいタオルやブレストパッドをずれないようにあて、乳くびがこすれずに乾燥した状態を保てるようにします。授乳後には乳くびを軽くふき、そのまま空気にさらしたり、日光にあてたりするのがよいでしょう。
 乳房がしこって痛くなるとすぐ乳腺炎(にゅうせんえん)(「急性うっ滞性乳腺炎」)と考えがちですが、発熱や乳房の発赤(ほっせき)(皮膚が赤くなる)、わきの下のリンパ節が腫(は)れて痛いということがなければ、ただお乳がたまっただけのうつ乳(にゅう)です。
 このうつ乳に対しては、痛みを多少がまんしても赤ちゃんに吸ってもらうか、手でしぼり、とにかく乳を出すことがたいせつです。また、乳房マッサージや、授乳と授乳の間に湿布(しっぷ)をするのも効果的です。
 発熱、乳房の発赤、熱感、痛み、わきの下のリンパ節が腫れて痛いといった症状がみられた場合には、乳腺炎の疑いもありますので、医師の診察を受けてください。
 息苦しさ・頭痛・むくみ これらの症状が出たときには、早めに医師にみてもらってください。腎臓(じんぞう)、心臓などに異常があるかもしれません。
 とくに、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)(「妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)」)があった人は、産後も安静を保ち、なるべく面会は断わるべきです。食事は減塩食をとり、水分の調節も必要です。むくみ、たんぱく尿、血圧にも注意し続けてください。
 排尿の異常 尿はがまんせず、なるべくこまめにトイレに行ってください。知らぬ間に尿がもれていることがあるかもしれませんが、通常1か月以内で治るはずです。
 便秘(べんぴ) 栄養バランスのとれた食事の計画をつくり、野菜、果物、水分を十分にとってください。また、過食を避け、必要なら緩下剤(かんげざい)を服用してください。
 痔(じ) 分娩が終了し、下大静脈(かだいじょうみゃく)への圧迫がとれると自然によくなります。洋式便所で温水マッサージをしたり、入浴や坐浴(ざよく)によって局所の清潔につとめ、長時間の座位を避けるなど、ふだんからうっ血を避け、血行をよくするように心がけてください。また、便秘をしないよう努力してください。なかなか治らない場合には、医師に相談して、坐薬(ざやく)やクリーム、緩下剤を処方してもらいましょう。
 会陰部(えいんぶ)の痛み 会陰部を縫ったあとの痛みが2~3週間すぎても続いたり、ひどくなるとき、あるいは、出血したり化膿(かのう)したりしたときには、医師にみてもらい、治療を受けましょう。
 外陰部のかゆみ 多くはおりものによるただれのせいです。かゆみがひどければ、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンや抗生物質の入ったクリームを塗るとよいかもしれません。
 それでも治らなければ医師にみてもらい、おりものの検査を受けましょう。カンジダというかびの一種が原因のことが多く、それに合った薬を使えば、わりあい早く治ります。
 手足のしびれと痛み これは産後に感じる人が多いようですが、その原因の多くはお産による疲れです。無理さえしなければ、日を追って軽くなっていくでしょう。ただ、むくみがあるようなら医師に相談してください。
 貧血 立ちくらみや動悸(どうき)がするのは、たいていは疲労のためですが、貧血によることもあります。疲れが激しく、爪(つめ)の色が悪くて、顔色がすぐれないようなら、鉄分の多い食品を多くとるように心がけてください。緑黄色野菜、海藻類、魚介類、大豆、レバーなどに鉄分が多く含まれています。それでも元気が出ないようなら、医師に相談してください。貧血の程度によっては、鉄剤を飲む必要もあります。
 心の悩み お産のあとに、気分が落ち込んだり、落ち着かなかったり、涙が出たり、いらいらするといったことがあります。これは、ホルモンをはじめとするからだの急激な変化と関係しており、ある程度はしかたのないことです。
 マタニティーブルーや産後うつ病など、産褥期(さんじょくき)精神障害(「産褥期精神障害」)にはさまざまな型がありますが、たいせつなのは、その気分の変調にこだわったり、赤ちゃんをもったことで気負いすぎたりしないように、気分を楽にすることです。それにはまず、夫や実家、友人などの協力を得て、睡眠をよくとり、疲れを回復させることが重要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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