肥前平戸(ひぜんひらど)藩主松浦清(まつらきよし)(号静山(せいざん))の随筆集。正編、続編各100巻、三編78巻。江戸幕府文教行政の中心人物で静山と親交のあった林述斎(はやしじゅっさい)の勧めにより、隠居の年、1821年(文政4)11月甲子(17日)の夜に起稿、20年間書き続けたが未完成に終わった。巻ごとに述斎の校閲を受けたという。述斎からの聞き書きも多い。内容は宮廷、朝幕関係をはじめ、信長、秀吉、家康以下の徳川将軍、大名、旗本、老中以下の幕吏、学者、文人墨客、僧侶(そうりょ)、医師、芸能人、その他名士の逸話、国内諸地域の奇談、異聞や民間の風俗、海外諸国の珍事奇聞などにわたる。文武両道を兼ねて諸芸を身につけ、下情にも通じていたことにより記事は豊富多彩、戦国期から田沼時代にかけての社会相を知るうえで、きわめて有益な資料であるばかりでなく、読み物としても絶好である。刊本は、国書刊行会本、東洋文庫本がある。
[宮崎道生 2017年1月19日]
『『甲子夜話』(1910・国書刊行会)』▽『『甲子夜話』(平凡社・東洋文庫)』▽『『未刊甲子夜話』(1964・有光書房)』
平戸藩主松浦(まつら)静山の随筆。1821年(文政4),静山62歳の11月甲子の日,静山邸を訪れていた親友林述斎のすすめによって,その夜から起筆したのが表題のゆえんである。1年後20巻ほどになったところで一書にまとめることを志し,序文等も選び,以後没する直前まで書きついで正編100巻,続編100巻,三編78巻という膨大な著述となった。内容は武人でありまた趣味人であった著者を反映して,近世初期からの武辺咄(ぶへんばなし)や政治談に関する聞書風のものから,世相風俗に関する実見談,さらには天変地妖に至るまで精力的にあつめられている。編を重ねるごとにオリジナルな説話が少なくなり叢書風になっている。隠退の身(47歳で致仕)の気安さもあって,俗事を克明に記すところが後世の資料的価値を高めてもいるが,その本領は武人としての身の処し方にあり,編中各所にその気概を漏らしている。〈東洋文庫〉に収められている。
執筆者:中野 三敏
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平戸藩主だった松浦静山(まつうらせいざん)著の随筆。正編100巻・続編100巻・3編78巻の計278巻と目録3巻。1821年(文政4)11月17日に起筆し,41年(天保12)没するまで書き継がれた。書名は甲子(きのえね)の夜に起筆したことに由来し,自身の見聞や,側近のもたらす異聞・雑記を収載している。狐狸・妖怪などに興味が示され,幕末期の世相風俗を知るとともに,大名の地位にあった人間の人格・識見・思想をみることができる。「日本随筆大成」(正編のみ)・「東洋文庫」所収。
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