(1)明治以前の朝廷で,任官叙位の際,昇進者とその理由とを記した文書の呼び名。昇進会議の備忘録。(2)近世の記録の一種。関係者から直接聞き筆記したものと間接的に伝え聞いて筆記したものとがある。前者には,師匠の講説を速記したもの,要約して書いたものなどある。中世では講説の筆記は抄物(しようもの)と呼ばれ,当時の口語を探るうえで貴重とされるが,近世ではていねいに筆記しすぎると,〈先生コヽニ於テ一咳ス〉まで書き留める態度として嘲笑された。関係者から直接聞き筆記したものは史料的価値も高いが,しばしば聞書と称して巷間の伝聞を集めたにすぎないものも多く,筆者の素性・立場を明らかにすることが先決になってくる。尾張国清須春日村柿屋喜左衛門が祖父の談を筆記した《祖父物語》,大坂の陣で後藤又兵衛配下の長沢九郎兵衛筆記の《長沢聞書》,金沢藩主前田利家の談を筆記した《利家夜話》など,書名もいろいろである。
→覚書
執筆者:益田 宗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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