日本大百科全書(ニッポニカ) 「私聚百因縁集」の意味・わかりやすい解説
私聚百因縁集
しじゅひゃくいんねんしゅう
鎌倉中期の仏教説話集。9巻。147話の説話を収載。序、跋(ばつ)をもつ。これにより、1257年(正嘉1)、当時48歳の常陸(ひたち)国(茨城県)の僧、住信の手により、仏法の唱導書として成立したことが知られる。構成は天竺(てんじく)(巻1~4)、唐土(巻5、6)、和朝(巻7~9)の3部に分けられる。巻頭に仏法王法起源譚(たん)を置き、巻8末に法然往生(ほうねんおうじょう)譚を配すなど、その説話配列には、浄土宗を基軸に据えた仏法の三国伝来、発展史的構想がみてとれる。本書が法然(源空)の専修念仏信仰の宣揚の書であることは、随処にみられる称名念仏利益(りやく)譚からも肯定される。また、孝養譚や十王譚も目につくが、これは追善供養を主とする葬式仏教的布教活動と本書との結び付きを示唆して興味深い。説話の出典としては、『日本往生極楽記』『三宝絵詞(さんぼうえことば)』『発心集(ほっしんしゅう)』『注好選(ちゅうこうせん)』『天竺往生験記』などが指摘されている。表記は変体漢文に宣命(せんみょう)文、和漢混交文が混在し、独特な様相をみせている。
[木下資一]
『『研究資料日本古典文学3 説話文学』(1984・明治書院)』