発達障害者支援法(読み)ハッタツショウガイシャシエンホウ

デジタル大辞泉 「発達障害者支援法」の意味・読み・例文・類語

はったつしょうがいしゃ‐しえんほう〔ハツタツシヤウガイシヤシヱンハフ〕【発達障害者支援法】

自閉症アスペルガー症候群などの広汎性発達障害や、学習障害注意欠陥多動性障害ADHD)などの発達障害早期発見発達支援について定めた法律。発達障害者支援センターの設置についても規定する。平成17年(2005)4月施行。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「発達障害者支援法」の意味・わかりやすい解説

発達障害者支援法
はったつしょうがいしゃしえんほう

2004年(平成16)12月に成立、2005年4月に施行された発達障害者に対する支援(自立と社会参加)を定めた法律(平成16年法律第167号、以下支援法)。この法律は、発達障害を早期に発見し、発達支援を行うことに関して国、地方公共団体、国民の責務を明らかにするとともに、発達障害者への学校教育における支援・就労の支援、発達障害者支援センターの設置や発達障害者を支援する民間団体への支援などを図ることにより、発達障害者の自立および社会参加に資することを目的としている。超党派の「発達障害の支援を考える議員連盟」(初代会長・橋本龍太郎)によって提案された3年後の見直しを含む時限立法である。なお、2011年7月時点で、本法の改正は未実施であり、そのまま延長されている。

 この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎(こうはん)性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものとなっており、「発達障害者」とは、発達障害を有するために日常生活または社会生活に制限を受ける者をいう。政令で定める発達障害として、発達性言語障害と発達性協調運動障害が示され、さらに厚生労働省令で定める発達障害として、WHO(世界保健機関)が作成している国際疾病分類第10改訂(ICD-10)の「心理的発達の障害(F8)並びに行動及び情緒の障害(F9)」に列挙されている障害群が含まれることになっている。

 法律上の障害者の定義は、2004年5月に改定された障害者基本法で定められた3障害、つまり知的障害、身体障害、精神障害に限定されていたが、この支援法によって新たに発達障害が位置づけられた意義は大きい。福祉制度の大変革である障害者自立支援法(2006年4月施行)では、支援の対象として発達障害が明記された訳ではなかったが、2010年10月の同法の一部改正(平成22年法律第71号)において、障害者の範囲の見直しがあり、発達障害は精神障害に含まれるものとして明記された(4条1項)。また、本文にはないが、高次脳機能障害も発達障害と同等とすることが厚生労働省の通知で示されている。このことで、法的に発達障害者・発達障害児(18歳未満の発達障害者)は、精神障害者と同様のサービスの利用が可能となった。

 しかし現実には、発達障害とは何かの理解が問題である。法的な定義と一般的な概念とが乖離(かいり)するからである。支援法の定義は前述のとおりであるのに対して、一般には、発達障害とは、知的障害(精神遅滞)と同様な支援が必要で、生得的な障害であるので、その支援のあり方において中途障害とは質・量ともに違いがあり、かつ支援は一生涯続けられねばならない状態と理解されている。具体的には、知的発達障害、脳性麻痺(まひ)などの生得的な運動発達障害(身体障害)、自閉症やアスペルガー症候群を含む広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害およびその関連障害、学習障害、発達性協調運動障害、発達性言語障害、てんかんなどを主体とする。視覚障害聴覚障害および種々の健康障害(慢性疾患)を含む場合もある。つまり、広範囲で包括的な概念が発達障害である。

 以上、従来の発達障害の概念と支援法の発達障害の定義を比較するなら、従来の概念の一部が支援法の定義であり、前者が後者を包含する。歴史的にみれば、発達障害は「重度な」あるいは「重篤な」という形容詞がつく状態を意味していた。しかし、いわゆる軽度(知的発達に遅れのない)発達障害とみなされる状態もあり、それらの人々に対しても従来の発達障害と同様の支援が必要であることが強調されるようになった。そのような考え方からすると、支援法の発達障害のとらえ方はいわゆる軽度発達障害と重なる。

 支援法の成立に至るまでには、厚生労働省と文部科学省による二つの流れがあった。

 厚生労働省は、2002年4月より自閉症・発達障害支援センター運営事業を開始し、都道府県あるいは政令指定都市に1か所の設置を目ざして、自閉症とその周辺の発達障害を支援するネットワークを構築しようとした。広汎性発達障害の支援を想定したシステムである。

 文部科学省では、学習障害の対応を検討するなかで、特殊教育から特別支援教育という枠組みへ移行することになった。特殊教育の対象ではなかった、高機能自閉症、注意欠陥多動性障害、そして学習障害などの軽度発達障害児も、特別支援教育の対象に加えようというのである。

 従来の障害者の枠組みでは対応が不十分であった広汎性発達障害と特別支援教育の対象となる障害とを新たに支援の対象としようとするのが、支援法の意図である。省庁の枠組みを超えて、施行通知は文部科学事務次官と厚生労働事務次官の連名でなされた。自閉症・発達障害支援センターは発達障害者支援センターとなり、支援法でいう発達障害者・発達障害児の支援を行う機関と位置づけられた。

[原 仁]

『発達障害者支援法ガイドブック編集委員会編『発達障害者支援法ガイドブック』(2005・河出書房新社)』『原仁著「医学からみた発達障害者支援法」(日本知的障害福祉連盟編『発達障害医学の進歩18』pp.79~86. 2006・診断と治療社)』『大塚晃「発達障害者支援法の意義と今後の展望」(加我牧子・稲垣真澄編『医師のための発達障害児・者診断治療ガイド――最新の知見と支援の実際』pp.10~14. 2006・診断と治療社)』『原仁著「医学的視点からみた発達障害――歴史的かつ包括的な概念としての発達障害」(齊藤万比古総編集、宮本信也・田中康雄責任編集『子どもの心の診療シリーズ2 発達障害とその周辺の問題』pp.2~12. 2008・中山書店)』

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知恵蔵 「発達障害者支援法」の解説

発達障害者支援法

自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害や、学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、その他これに類する脳機能障害で、その症状が低年齢に発現する発達障害(本法対象は政令で規定)に対して、早期発見と早期療育や学校教育・就労・地域生活に必要な支援と家族への助言、発達障害の啓発、都道府県での発達障害者支援センター設置など、その自立と社会参加の援助について国・自治体の責務を規定した法律(2005年4月1日施行)。乳幼児検診や就学時健康診断などで早期発見し、障害の可能性がある場合は、知事が指定する専門医療機関で診断・支援が受けられる。これらの問題への社会的関心が高まったのは最近のことであり、心身・精神障害者に関する制度が整備されていく中で発達障害者(児)の支援には根拠法はなく、制度の谷間にあった。文部科学省の調査では小学校普通学級の児童の6.3%が発達障害の可能性があるとされ、クラスで1人はいる割合である。これまでは、落ち着きのない子、粗暴な子、勉強のできない子というネガティブな評価のみを受けがちで、適切な対応がなされてこなかった。文科省では特殊教育の学校制度や教員免許状を改革する方針が出され、埼玉県などでは特別支援教育をコーディネートする教員の研修・指名の取り組みも始まっている。

(中谷茂一 聖学院大学助教授 / 2007年)

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